盗賊を倒したことを報告し村にお金を返して回り、旅を続ける。
「やっぱり優しいですね」
いつの間にかちょっとだけ近くなったキリアンに聞こえないようにハニアスが隣のテシアに声をかけた。
「まーた、何が?」
「お金です。盗賊から奪った分だけじゃ足りてないでしょう」
テシアは被害に遭った額を聞いて全額を村に返していた。
しかし盗賊が奪ったお金を全額大切に持っているはずがない。
奪われたお金は当然使われてしまっていてかなりの金額足りていなかった。
けれどテシアは全ての村に奪われたお金を全て返したのだ。
当然足りない分はテシアの懐から出ていた。
「……人は神に祈りを捧げるのにお布施をする。巡礼をして人の困り事を解決するのは神に祈りを捧げるのにも等しい。ならば困り事を解決するのにお金を出すのはお布施をみたいなものだろう?」
「うーん、そうでしょうか?」
「そうさ。それにお金を払って助けられるものがあるならお金を払ってしまえばいい」
テシアはなんてこともなく言うけれど決して軽い金額ではない。
ビノシ商会の本当の持ち主でお金に余裕があるからこそなのかもしれないが、さらりと自分の懐からも支払う姿は尊敬に値する。
特に後ろをついてきている子犬はそんなテシアの懐事情も知らないので、自分の懐からもお金を返すテシアにいたく感動していた。
自己の犠牲も厭わず無辜の民を救う聖職者の鏡であると目を輝かせている。
「しかし、しばらくは節約生活だからね」
「えっ」
「そりゃそうだよ。お金使ったんだから」
残念ながらお金は使えば無くなる。
どこからか降ってくるわけじゃない。
ジーダムがかなり余裕を持って用意してくれたので旅を続けられるぐらいはあるけれど、今いる場所からではビノシ商会の支部も遠いので金銭の補給は出来ない。
巡礼をしているということでお金などを恵んでもらうやり方もあるがそれは最終手段である。
「ま、まあしょうがないですよね」
諸先輩方から巡礼は楽なものではないと聞かされてきた。
しかしテシアがいるおかげで今のところ先輩方が言っていた辛い巡礼には一切なっていない。
お金が足りないのなら仕方ないので大なり小なり大変な思いをすることは仕方ないことだ。
これまでが楽すぎた。
少し気を引き締めようとハニアスは思った。
「ここには小さいながら教会がありますね」
節約するとは言ったけれど途中あるのは村ぐらいで特に買い物することもない。
宿がないような村もあり、巡礼をしていると正直に告げると空いている部屋に泊めてくれる人も多くいる。
聖職者に善行を施すことはお布施をするなどと同じような意味を持つ。
少しだけテシアの格好は怪しいがそれでも受け入れてくれる人の方が遥かに多かった。
節約旅をすることになったけれどほとんどこれまでと変わらない旅をしながら少し大きめの村に着いた。
村の中の少し大きめな建物が教会であることにハニアスは気づいた。
「まずは教会に寄ろうか」
時間的に旅を切り上げるにはやや早めだが教会があるなら寄っていかねばならない。
「なんだか見られていませんか?」
ハニアスは村人たちの視線に居心地の悪さを感じていた。
テシアの格好は目立つし規模の小さい村では余所者が訪れることも珍しくて見られることは普通である。
好奇の視線に晒されることも慣れてきていたのだが、なんとなくこの村の視線は他の村とは違う感じがしていた。
もっとじっとりとした視線。
ただ興味をもったり警戒したりした視線じゃなくてもっと絡みつくように観察されている。
「……余所者に排他的な村なのかもしれないね」
時として余所者を歓迎しない村も存在している。
何が人をそうさせるのかの理由は様々であるがテシアは皇女時代のことを思い出していた。
こんな視線を向けられたがある。
歓迎の言葉は少なく、テシアが何をするのか観察するような気分の悪い目だった。
「あの時は……」
「あの時?」
「いや、なんでもない」
考えても仕方ない。
すぐに通り過ぎるだけなら問題もないだろうと視線は気にしないことにした。
「巡礼の方でしたか。それはご苦労様です」
教会には一人の神官がいた。
人の良さそうな笑みを浮かべる男性でテシアとハニアスを歓迎してくれた。
「ご一緒に来られた方はお仲間ですか?」
「いえ、たまたま同じ方向だっただけです」
「それはよかった……」
「よかった、ですか?」
「いえ……小さい教会なので余っているような部屋もなく。お二人でしたらお使いできるところもあるのですがと思っておりまして」
神官の言葉にやや引っ掛かりを覚えたけれど通されたのはちゃんとした部屋だった。
ベッドが二つ置いてある小さな部屋であるが泊まるだけなら問題はない。
「明日は早く出よう」
テシアはヘルムを外した。
顔がバレなくていいのだけどヘルムの中は蒸れるのが弱点だなと思う。
「私も同感です」
神父も人は良さそうに見えたが目の奥が笑っていなかった。
異様な雰囲気にテシアもハニアスもさっさとこの村を離れようとなった。
「キリアン様は大丈夫でしょうか?」
キリアンは巡礼者ではない。
そのために教会ではなく村の隅にある宿に泊まっている。
「やっぱり優しいですね」
いつの間にかちょっとだけ近くなったキリアンに聞こえないようにハニアスが隣のテシアに声をかけた。
「まーた、何が?」
「お金です。盗賊から奪った分だけじゃ足りてないでしょう」
テシアは被害に遭った額を聞いて全額を村に返していた。
しかし盗賊が奪ったお金を全額大切に持っているはずがない。
奪われたお金は当然使われてしまっていてかなりの金額足りていなかった。
けれどテシアは全ての村に奪われたお金を全て返したのだ。
当然足りない分はテシアの懐から出ていた。
「……人は神に祈りを捧げるのにお布施をする。巡礼をして人の困り事を解決するのは神に祈りを捧げるのにも等しい。ならば困り事を解決するのにお金を出すのはお布施をみたいなものだろう?」
「うーん、そうでしょうか?」
「そうさ。それにお金を払って助けられるものがあるならお金を払ってしまえばいい」
テシアはなんてこともなく言うけれど決して軽い金額ではない。
ビノシ商会の本当の持ち主でお金に余裕があるからこそなのかもしれないが、さらりと自分の懐からも支払う姿は尊敬に値する。
特に後ろをついてきている子犬はそんなテシアの懐事情も知らないので、自分の懐からもお金を返すテシアにいたく感動していた。
自己の犠牲も厭わず無辜の民を救う聖職者の鏡であると目を輝かせている。
「しかし、しばらくは節約生活だからね」
「えっ」
「そりゃそうだよ。お金使ったんだから」
残念ながらお金は使えば無くなる。
どこからか降ってくるわけじゃない。
ジーダムがかなり余裕を持って用意してくれたので旅を続けられるぐらいはあるけれど、今いる場所からではビノシ商会の支部も遠いので金銭の補給は出来ない。
巡礼をしているということでお金などを恵んでもらうやり方もあるがそれは最終手段である。
「ま、まあしょうがないですよね」
諸先輩方から巡礼は楽なものではないと聞かされてきた。
しかしテシアがいるおかげで今のところ先輩方が言っていた辛い巡礼には一切なっていない。
お金が足りないのなら仕方ないので大なり小なり大変な思いをすることは仕方ないことだ。
これまでが楽すぎた。
少し気を引き締めようとハニアスは思った。
「ここには小さいながら教会がありますね」
節約するとは言ったけれど途中あるのは村ぐらいで特に買い物することもない。
宿がないような村もあり、巡礼をしていると正直に告げると空いている部屋に泊めてくれる人も多くいる。
聖職者に善行を施すことはお布施をするなどと同じような意味を持つ。
少しだけテシアの格好は怪しいがそれでも受け入れてくれる人の方が遥かに多かった。
節約旅をすることになったけれどほとんどこれまでと変わらない旅をしながら少し大きめの村に着いた。
村の中の少し大きめな建物が教会であることにハニアスは気づいた。
「まずは教会に寄ろうか」
時間的に旅を切り上げるにはやや早めだが教会があるなら寄っていかねばならない。
「なんだか見られていませんか?」
ハニアスは村人たちの視線に居心地の悪さを感じていた。
テシアの格好は目立つし規模の小さい村では余所者が訪れることも珍しくて見られることは普通である。
好奇の視線に晒されることも慣れてきていたのだが、なんとなくこの村の視線は他の村とは違う感じがしていた。
もっとじっとりとした視線。
ただ興味をもったり警戒したりした視線じゃなくてもっと絡みつくように観察されている。
「……余所者に排他的な村なのかもしれないね」
時として余所者を歓迎しない村も存在している。
何が人をそうさせるのかの理由は様々であるがテシアは皇女時代のことを思い出していた。
こんな視線を向けられたがある。
歓迎の言葉は少なく、テシアが何をするのか観察するような気分の悪い目だった。
「あの時は……」
「あの時?」
「いや、なんでもない」
考えても仕方ない。
すぐに通り過ぎるだけなら問題もないだろうと視線は気にしないことにした。
「巡礼の方でしたか。それはご苦労様です」
教会には一人の神官がいた。
人の良さそうな笑みを浮かべる男性でテシアとハニアスを歓迎してくれた。
「ご一緒に来られた方はお仲間ですか?」
「いえ、たまたま同じ方向だっただけです」
「それはよかった……」
「よかった、ですか?」
「いえ……小さい教会なので余っているような部屋もなく。お二人でしたらお使いできるところもあるのですがと思っておりまして」
神官の言葉にやや引っ掛かりを覚えたけれど通されたのはちゃんとした部屋だった。
ベッドが二つ置いてある小さな部屋であるが泊まるだけなら問題はない。
「明日は早く出よう」
テシアはヘルムを外した。
顔がバレなくていいのだけどヘルムの中は蒸れるのが弱点だなと思う。
「私も同感です」
神父も人は良さそうに見えたが目の奥が笑っていなかった。
異様な雰囲気にテシアもハニアスもさっさとこの村を離れようとなった。
「キリアン様は大丈夫でしょうか?」
キリアンは巡礼者ではない。
そのために教会ではなく村の隅にある宿に泊まっている。