初恋について尋ねられると、いつも困ってしまう。
 自分でも、よくわからないから。
 それでも、何度恋人が変わっても、心の片隅から決して消えてくれない人がいる。
 あまりに不毛なことだから、忘れる努力をするほど、忘れられなくなり、やっと忘れた頃、ふっと思い出してしまう。
 バカだよ…あれから、どれだけの歳月が流れたと思っているの?
 未来どころか、過去も現在もないような、そんな恋愛未満の残像に想いを馳せるより、隣の彼のことを見つめなければいけないのに。
 考えれば考えるほど、それが真実なのかはわからないけれど…たぶん、あれが忘れじの初恋―。

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 私の高校時代というと、実に退屈だった。
 今も昔も、私は、嫌いな相手とでも表向きにうまくやるなんてできない性格で、運悪く、高校のクラスメイトは馬の合わないタイプばかりだったのだ。
 先生との出会いは、高校2年の頃。
 担任でもなく、ただ化学の担当だった。接点はそれだけ。
 特に何があったわけでもない。
 ただ、先生は、一匹狼気取りで無愛想な私のことを、やけに構ってきた。
 それは単なる同情だったのかもしれない。
 私の反応を面白がっただけかもしれない。
 授業中だけでなく、廊下ですれ違ったに、毎回声をかけてくる教師なんて、他に居なかった。
 私がイベントで孤立したり、体調が悪くて帰ろうとしていた時には、明らかに心配して親切にもしてくれた。

 3年生になり、履修科目から化学が消えても、すれ違う時の先生の態度は変わらなくて。
 思春期の私というと、男子なんてガキでバカで大嫌いだと心底思っていたから、好きな子なんて居なかった。
 だからなのかな。
 親しい友達も居らず、好きな子も居ない私にとって、いつも構ってくる先生は、単純接触効果もあったのかもしれない。