「彩奈は、第2ボタン、貰うんでしょ?」
第2ボタン、大切な人に贈るという、伝説。
彩奈には恋人がいる。
「うん、裕翔(ゆうと)くれるって言ってた」
「いいなあ、恋人いる彩奈は、ちょうだいって言ったらもらえる関係値まで、もう築けてるんだもん」
私は好きな人に振り向いてもらうどころか、気持ちさえ伝えられてないのに。
私は幼馴染の恭弥(きょうや)のことが好き。
好きって気付いたのは割りと早かった、幼稚園の遠足で迷子になったときだった。
みんなと離れ離れになっちゃって、ずっと手を繋いでいてくれたこと。
『咲ちゃん、大丈夫だからね、恭が付いてるからね、手、離しちゃだめだよ、僕がみんなを見つけるから』
幼いこの当時の私は、ときめいちゃったんだよね。
それから、意識し始めてずっーと好き。気づかれないようにしてるけど、勉強教えてもらってる時とか、たまに手が触れたり、距離近くて、心臓バッグバクで。
「咲華も伝えたらいいのに、恭弥くん、高校離れちゃうらしいし」
「しってるよー、恭弥、かっこいいからさ、人気高いんだよ、きっと、周りの女の子にあげちゃうよ、私がほしいのになあ、なんでこうわがままのくせに頑固なんだろ、私」
「そんな好きなら尚更気持ち伝えた方がいいって」
彩奈は、私の肩を軽く2回ほど叩いた。
「私に勇気がないの知ってるじゃん…」
「だってもう、高校入ったら、学校違うし、中々、会えなくなるかもしれないんだよ?」
「そうだよねー、卒業だもんね。そっかぁ…。悲しい」
「勇気出しなよ」
彩奈は両手をグーにして、手を上下に振っていた。
「んー、頑張ってみるかぁ」
「よく言った!」
勇気を出して気持ちを伝えてみることにした。
卒業式が終わって、デジカメや、両親に持ってきてもらったスマホで、写真をみんなで撮っていた。
恭弥は、女の子の列を作って、次々と泣いて帰るという、ループが出来ていた。
おそらく、振っているのだろう。
そういえば、恭弥の好きな人の話って聞いたことなかったな。
いないんだろうか。
私がなれたらいいな、なんて、この次々と振られる女の子たちを見ていたら、告白する気もなくなってきた。
「咲華」
私の名前を呼ぶ声は、お母さんだった。
「あ、お母さん」
「恭弥くんと、写真撮るでしょ?おーい!恭弥くんこっちこっち!咲華と写真撮ってくれないー?」
お母さん、なんと、恭弥を呼んでしまった。
呼ばれて恭弥もこっち来ちゃうし
「咲華のお母さん、どうも」
恭弥は、なんかお母さんに挨拶してるし。
「咲華、撮るんでしょ、ほら寄って寄って」
お母さんは、私達を近づけて写真を撮ろうとしてる。
幼馴染だから、撮りたいだけなんだろうけど。
「私が言ったんじゃないし」
「じゃあ撮らないの?もうカメラ準備できてるけど」
お母さんは構えていたカメラを下ろして言った。
「撮らなくていいの?」
恭弥まで、言ってくる。
「わかったよ。二人して言わないで、撮るよ、撮りますよ」
私は投げやりになっていた。
恥ずかしい、みんな見てるよ。
恭弥と撮れる人なんて、いないよ。
あんなに優しかった恭弥は、今じゃ女の子たちを泣かしてばっかり。
なんで?あんなに優しかったじゃん。
「じゃあ撮るよー!いい?」
お母さんは、カメラをもう一度構えた。
「咲華、俺のこと嫌いになったでしょ」
恭弥は、二人にしか聞こえない声量で言ってきた。
「なってない!」
大声で答えてしまった。お母さんにも聞こえる声量で。
「準備できてないー?」
「そうじゃないからー!こっちの話!」
驚かせること言わないでよ。違うのに。
「じゃあ撮るよー!はいチーズ」
気まず…。こんなに気まずい写真撮影初めて。
ぎこちない笑顔で、多分引きつってたと思う。
恭弥、誰にもあげないのかな。
「恭弥くん、ありがとね、咲華と写真撮ってくれて。高校少し遠いところ行くんだってね、咲華から聞いたよ」
私から言ったって言わないでよ。
「咲華、俺のこと話すんですか」
なんでそんな興味示すの。みんなに冷たいんじゃないの?
「家ではよく話してるよ」
「お母さん、いいってば、先帰ってて」
「まだ恭弥くんと話が…」
「私が話しあるから、お母さん、先帰って」
「あらそう?分かったわ」
なんとかお母さんを家に帰すことに成功した。
「咲華?話ってなに」
そうだった、話しあるからって言っちゃったんだった。
「たいした話じゃないの、いや、大きな話っていうか、大事な話ではあるんだけど、これを言ったら恭弥とはもう会えないかもしれない」
察してよ。早く振ってくれていいよ。
「もう会えないの?」
なんでそんな悲しそうな顔するの。
「うん、もう会えないかも」
なんで黙るの。なんで、なんで??
「恭弥?」
恭弥、なんで下向くの。
顔、見せてよ。
私はそっと、恭弥の左頬に自分の手を添えた。
すると恭弥は、私の手の上に手を重ねてこう言った。
「俺は、これからも咲華の隣りにいたいと思ってる」
え??今なんて言った?
私の聞き間違い?
「ごめん、私の聞き間違いかもしれない、もう一回言ってくれる?」
「俺がどんだけ緊張してると思ってんだ」
「ふぇ?聞き間違いじゃないってこと?」
恭弥は、ものすごく恥ずかしそうにしてるから、こっちまで恥ずかしくなってきた。
「恭弥の隣にいてもいいの?」
「いてくれないと俺が困る、だからこれ、貰ってくれないか」
そう言って差し出したのは、制服のボタン。
ボタンをつけていない場所は、第2ボタンのところだけ。
「ほんとに私でいいの?」
もらえるなんて思ってもなかった。
付き合えるなんて、考えてもなかった。
「咲華は、俺じゃ嫌?」
ずるいよ、その聞き方。
「ううん、嫌じゃない、私も好きだった、ずっと恭弥のこと、好きだったよ」
でも嬉しい、両思いなれたことが。
「それは知らなかった」
「だって、バレないように徹底してたから、それに、女の子に囲まれてばかりいて、最近話せてなかったし」
ヤキモチ焼いてたのはナイショ。
「でもずっと好きでいてくれたんだ?俺も、ずっと好きだった」
「全く気づかなかった、お互い、好きだったんだね。両思い、なっちゃった」
「何その悪いみたいな言い方すんの」
「夢みたいだから、私の初恋、叶っちゃった」
嬉しい、大好き。抑えてた思いが溢れ出てくる。
「俺も。もっと早くに伝えてたら良かったかも、時間掛かりすぎたな」
「それでも、つたえてくれたことが、すっっっごくうれしい。ありがとね恭弥」
桜は満開にはならなかったけど、わたしたちの恋は結ばれた。
もらえると思ってなかった、第2ボタン。
恭弥の大事な人に、私なれたよ。
春から違う高校だけど、初恋で結ばれた私達の恋なら大丈夫だよねっ。
春から私たちは高校生になった。
暗かった私の性格は、ちょっとだけ変化がありました。
大好きな恭弥のおかげで、毎日夜に電話をするようになって、今日あったこととか、話したり、好きだよって伝え合ったりなんかしちゃって。
ずっと続くかわからないし、なんて言ったら、俺が離したくないなんて言われちゃったので、しばらくは自分に自信がついたので、胸を張れそうです。
恭弥は、新しい高校生活でもモテてるようですが、彼女いるからと断っているみたいです。
その彼女になれた私は、すごくすごく、しあわせものですね。
みんなは、好きな子に、第2ボタンもらえたかな?渡せたかな?
彩奈は、無事もらえたみたい。二人で喜んだよ。
またみんなの話が聞きたいな。
みんなが幸せな気分に慣れますように!
お裾分け!