静穂はとにかく走った。
 広い館の中、あいまいな記憶を頼りに出口に向かう。

 が、すぐに迷った。

 徐々に彼が迫って来る。

 このままでは捕まってしまう。

 逃げなくちゃ。逃げている間は離婚しなくて済む。

 必死に走ったが、廊下は行き止まりになった。

 目の前には扉が一つ。

 振り返ると、雷刀が走って来る。

「その扉はダメです!」
 彼が叫ぶ。

 かまわず開けて飛び込み、扉を閉める。
 そして、愕然とした。

「どこ、ここ……」
 まるで洞窟の中だった。

 壁にはたいまつがかけられていて、なんとか足元は見える。
 振り返ると、扉は消えていた。

「え?」
 呆然としていると、足元からクククッと声が聞こえた。

「デンカちゃん! 一緒に来ちゃったのね」
 なんだかホッとして、デンカを抱き上げる。

「ここ、どこなんだろう。どこへ行ったらいいのかな」
 つぶやくと、デンカはするりと腕から抜け出した。見事に着地して、軽やかに走り出す。

「待って」
 思わず静穂は追い掛ける。

 デンカはしばらく走ると静穂が追いつくのを待った。それからまた誘導するように走る。

「待ってったら。危ないよ」
 静穂は転ばないように気を付けながらデンカを追った。