なりすましがバレたら外交問題になるかもしれない。そうなったら、自分だけの問題ではすまない。

 静穂の心臓はばくばくと早鐘を打つ。口の端に刻んだ笑みが不自然なことは自分でもわかった。

「嘘ですね」
 彼は一刀両断した。

 どうやってごまかそうか、静穂が目をさまよわせたときだった。

 どこからともなく現れた小さな動物が、ひょこっとテーブルに載った。

「かわいい!」
 状況を忘れて、思わず声をあげた。

「あ、デンカ、駄目です」
 雷刀が捕まえようとするが、するりとしなやかに抜けて静穂に近づく。

 丸い頭に小さな丸い耳、小さな金色の目、ピンク色の鼻。細長い体に短い手足、長いしっぽ。全身は金色のやわらかな毛で覆われていた。

「フェレットですか?」
「雷獣ですよ」
 雷刀が答える。

 あやかし学の授業で、雷獣はイタチのような姿だと言われたことを静穂は思い出した。

「なでて良いですか?」
「それは……」
 雷刀が雷獣を見る。雷獣はうなずくような仕草を見せた。

「ちょっとだけですよ」
 静穂は目を輝かせ、雷獣の頭をそっと撫でる。首につけられた黒っぽい首輪が重々しくて不似合いだった。

「やわらかい。かわいい」
 そういえば、とちらりと雷刀を見る。

 彼もまたあやかしのはずだが、なんのあやかしなのか、説明がなかった気がする。

 国の威信をかけた政略結婚のはずなのに、杜撰なのではないのか。もしかしたら聞いても忘れているだけかもしれないが。

 疑問を押し込み、静穂は別のことを聞いた。

「名前はデンカなんですか?」
「……そうです。電気の電に火、ですよ」

 わりと安直な名前だな、と静穂は思った。

 あやかしにとって、名を知られるのは魂を縛られるのと同義だという。だから真の名は秘して人に知らせず、仮の名を人に教える。だからデンカも仮の名だろう。