紫の髪も瞳も、写真より美しく妖艶だった。背が高く、スーツがよく似合っている。

「花帆、知り合い?」
「えーっと」
 どう説明したものか、と沙彩を見たときだった。

 人々の視線が自分に向いていることに気づき、静穂の顔がひきつった。

「花帆さん、私は忙しい。早く車に乗って」
 雷刀が催促した。

「はい。沙彩、また今度ね」

 静穂は謝って、彼に誘導されるままに黒い高級車に乗った。突き刺さるような視線から、とにかく逃げたかった。



 車が到着したのは豪華な洋館だった。あやかしの駐日大使公館ということだが、どこにも表示はなかった。表立って瑞穂之国との国交はないから当然か、と思い直す。

 連れて行かれたのは豪華な洋間だった。クラシカルでヨーロピアンな家具が並ぶ。

 静穂はソファを勧められ、腰掛けた。
 向かい側には雷刀が座る。

 目が合うと、彼はにこやかな笑顔を浮かべた。
 静穂はほっとした。友好的に迎えられたのだ、変なことにはならないだろうと思った。

 それなのに。

「離婚しましょう」
 席に着くなりそう言われて唖然とした。

「今、なんて」
 聞き返す。

「離婚しましょう、と言いました」

「どうして」
 静穂がかろうじて絞り出した声は、かすれていた。

「あなた、花帆さんではありませんよね」

 静穂の顔がひきつった。
 ばれてるー!

「あなたは妹の静穂さんでしょう?」
「ち、違いますよ。そんなわけないじゃないですか」

 うろたえて否定するのは肯定になるのでは。予想外のことを言われたからうろたえたのだというふりをしなくては。