「殿下が手を回してくれましてね。書類が間違っていたことにしてくれました。こちらは書類の管理が雑な上、殿下の権力を利用したので簡単でした」

「え……?」
「あなたの世界では書類の訂正は大変なようでしたが、国際問題にしたくない人たちばかりなのでね、なんとかなりました」

「訂正って……?」
「あなたは静穂さんに戻り、花帆さんは花帆さんに戻る。本来の人生を歩むのです」

「本来の人生……」
 この先ずっと花帆として生きていくのだと思っていた。静穂に戻れると言われても、戸惑ってしまう。

「その上でお尋ねします。静穂さん、あなたは私と人生を歩んでくれますか?」
「まるでプロポーズみたい……」

「私はまさに結婚を申し込んでいるのですよ」
 静穂は返事ができなかった。自分の鼓動がうるさくて、胸を押さえた。

「私は少々、卑怯でした。国同士の政略結婚を利用してあなたを手に入れようとした。ですが、今度は正々堂々と、あなた結婚したい」
 彼は彼女の手を取り、まっすぐに彼女を見つめる。

「私の妻になってください」
 彼が重ねて言う。
 彼のまっすぐな瞳に見つめられ、静穂の心拍数は上がるばかりだ。

「……私はもう、あなたの妻なので」
 やっと、それだけを答えることができた。

「静穂さん……!」
 感極まった雷刀は静穂を抱きしめ、その耳に唇を寄せる。

「私の真の名は……」
 名前をささやかれ、静穂は驚いて彼を見る。

「名前! 教えたらダメなんじゃ」
「あなただからですよ」
 雷刀の熱のこもった声が、静穂の耳に甘い。

「これからはあなたと夫婦らしくしたい。よろしく、私の奥さま」
「よろしくお願いします」

 答える静穂を、雷刀は包み込むように強く抱きしめる。

 鬼火に照らされた氷柱が、二人を祝福するかのようにきらめいていた。