幼い自分に恋をしたとも言われた。どこまで本当なのだろうか。今でもそうなのだろうか。

「私はこのままでいいのかと悩みました。結局、離婚をしたほうがいいと思いました」
 雷刀は言葉を切って静穂を見る。

「静穂さん、私はあなた自身と結婚したいのです。なにも偽らない本当のあなたと」
 静穂の顔がカーッと熱くなった。

「ですが、きちんと話をする前にあなたは逃げてしまいました」
「ごめんなさい、国際問題になったら大変だと思って……」

「そんなことにはなりませんよ。私がさせません」
 雷刀はきっぱりと言いきった。

「あなたは自分を省みずに人を助けるために動ける人です。そんなあなたを罪に落とすようなことはさせません」
 慣れない誉め言葉に、静穂はさらに顔を赤くした。

「あなたには二度も守られた。今度は私が守りますよ」
 雷刀が言う。

「……でも、本当は別に好きな人がいるんじゃないですか?」
「なぜそう思うのですか?」

「好きな人に逃げられたって……」
「あなたのことですよ」
 静穂は驚いて彼を見た。

 確かに離婚を持ち出されて逃げた。まさかそれを指しているとは。
 鬼火の青白い光に照らされて、彼の黒紫の瞳がきらめく。

「あなたが好きです。あのときから今でも、これからもずっと」
 静穂は自分の耳が信じられなくて、ただ彼を見つめる。

「しかし、こんな話のあとではあなたのほうが離婚したくなったかもしれませんね」
 雷刀は苦笑した。

「そんなこと、ないです」
 静穂の言葉に、雷刀は驚く。

「そう言われると期待してしまいますよ」
「期待って言われても」
 静穂はなにを言っていいのかわからなくなった。

「離婚はしません、と言ったらあなたは喜ぶのでしょうか。また逃げるのでしょうか」
 雷刀がいたずらっぽく言う。

「えっと、それは……」
 にこやかに細められた彼の目が美しくて、静穂はただ見つめる。