外交官が立てられると知った彼は試験に挑戦して合格し、外交官となった。

 これで堂々と日本に行ける。
 雷刀は外交官の仕事と平行して「かほ」を探した。
 下の名前しかわからなかったため、難航した。

 回廊が繋がってから二年後、瑞穂之国と日本との婚姻による和平の強化が図られると知った。

 はじめ、瑞穂之国の王族との婚姻が予定されていた。
 だが、王族と人間との結婚に反対する者が多く、計画は頓挫しそうになった。代理をたてようにも、人間との結婚に及び腰になる者ばかりだった。

 チャンスだ。
 雷刀はそう思い、自分が代表になると申し出た。
 ただ、相手は自分が指定した人物にしてほしい、と。

 交渉の末、それは叶った。
 日本政府が「かほ」を探し出し、婚姻の相手として了承を得たというのだ。

 確認のため、王家の秘宝である映し鏡を使って彼女の姿を見せてもらえた。

 魂の輝きすら映す手鏡には、すでに花帆となっていた静穂が映った。
 だから雷刀は、うなずいた。間違いなく彼女である、と。

 彼女が結婚できる年齢になると、すぐに婚姻届けを出した。
 だが、会いに行くことはできなかった。

 久しぶりに会う彼女になんと言えばいいのだろう。
 彼女は自分を覚えているだろうか。
 彼女の意を曲げての結婚になってしまったのではないだろうか。

 期待と不安が入り混じり、結局は不安が勝っていた。デンカが日ごとに増やす仕事を言い訳に、彼女に会いに行くのを先延ばしにした。

 少し先延ばしにしただけのつもりだったが、人間の世界では数年が過ぎていた。

 そんなときだった。
 デンカがからかい半分で、秘宝である手鏡を使って彼女を見せてきた。

「お前の愛しい人を見せてやる」
「どうぞおかまいなく」

「それはかまってほしいということだろう?」
 デンカはぐいっと鏡を見せてきた。

「人の生活を覗き見する趣味はありません」
「では我だけが見るとするか」

「おやめください」
 雷刀は思わず手鏡を奪った。