翌日、静穂は雷刀とともに牛車に乗り、洞窟の前まで運ばれた。
あちらに帰れる、とホッとしたのも束の間、もしかして、と雷刀を見る。
「私、国外追放処分ですか?」
雷刀はくすっと笑った。
「違いますよ」
「でも、私って不法入国ですよね?」
「そうなりますが、迷い込む人間もいますからね。即処罰にはなりません」
「温情があるんですね」
「入国はともかく、あなたは私と結婚しましたから瑞穂之国の在留資格を持っています」
「そこは向こうと同じなんですね」
静穂は感心した。
「あまりに私に……あやかしの国に関心がないですね」
雷刀が苦笑する。
「……でも結婚してもずうっと放っておかれたし、この先もそうだと思いました」
「それは私にも責任があります。が、決して無関心で放置したわけではないことだけは言っておきます」
無関心じゃないならなんだろう。
疑問に思うが、聞けなかった。
「帰る前に、お見せしたいものがあります。行きますよ」
雷刀の手がスッと伸びて静穂の手を握った。
静穂が驚くのも構わず、彼は手を引いて洞窟へと歩く。
振りほどくこともできず、静穂は彼について行く。
「鬼火を借りました。明かりはこれで大丈夫でしょう」
彼が手をひらめかせると、青白い火がポッと灯った。
火は二人の前を照らし、二人が移動すると一緒に動いた。
どうなってるんだろ、と眺めるが、まったく原理はわからない。
洞窟の中は相変わらず足場が悪く、地下水が染み出していて滑るから歩きにくかった。
洞内の気温は低い。ブルッと震えると、雷刀が自分の上着を着せてくれた。
「あなたが寒くなってしまいます」
慌てて返そうとする静穂を、雷刀は優しく押しとどめる。
「私はあやかしですから、この程度は寒くはないのですよ」
やむなく静穂は服を借りた。