「すごい。もう痕もないです」
「なにしろ河童の妙薬ですからね」
 女性の河童がころころと笑って答える。

 その後、彼女に連れられて浴室に行く。
 ヒノキ造りのお風呂で、いい香りがしていた。

 お風呂から上がると香を焚き()めた振袖を着つけられた。くすんだ水色に色とりどりの花が咲いた生地で、レース生地の半襟をのぞかせて薄黄色の帯を締める。

 レトロモダンの風合いがかわいかった。

 紫の帯締めに金色の帯留めを飾ると、雷刀の瞳の色だ、と胸が高鳴った。

 雷刀から贈られたかんざしがあるはずだと言われて、バッグから取り出す。河童の女性は静穂の髪を結い上げ、髪に挿してくれた。

「お似合いですよ。旦那様が惚れ直すこと間違いなしです」
 河童の女性はにっこり笑ってそう言った。

 静穂は曖昧に笑って返した。

 本当にそうならいいのに。
 だけどそんなこと、ありえるわけもない。離婚を切り出されているのだから。

 期待より、失望が胸を占めた。

 その後、大きな座敷に連れて行かれた。

 床の間には掛け軸がかけられ、生け花が飾られている。隣の違い棚には香炉のようなものが置かれていた。

 床の間を背にして先ほどの金髪の男性が座っていた。その正面に雷刀が座っている。

 入室した静穂は雷刀にうながされて隣に座った。

「ケガはいかがですか」
「薬を塗ってもらって、治りました」

「それは良かった」
 雷刀はほっとしたように微笑した。

「着物もかんざしもよく似合っておいでです」
「ありがとうございます」
 男性にほめられるなんて慣れていないから、静穂はどきどきした。

 雷刀への好意を自覚したあとでは、隣にいるのはどうにも落ち着かなかった。

 着物にいい香りが焚き染めてあるのが、なんだかありがたかった。

 雷刀は再び微笑み、それから表情を引き締めた。