静穂はどう反応したらいいのかわからない。

 気がつくと雷刀が追いかけて来ていた。

 二つ名のつくあやかしは強い。
 そう言われたばかりだ。

 風磨はおそらく弱い。超弱い。雷刀にしてみたら、ミジンコを踏んづけるくらいに簡単に勝てるのではないだろうか。

「離婚は承諾します! 追いかけてこないでください!」
 静穂は必死に雷刀に叫ぶ。

「早く逃げましょう!」
「わかってる」
 風磨は再び竜巻を出して撹乱すると、静穂と一緒に走り出した。



 人間の世界との回廊である洞窟の前には、たくさんのあやかしが警戒に当たっていた。
「どうしよう」
「任せろ」
 困惑する静穂に、風磨は自信を見せた。

 風磨は腕輪を一本とると、地面に投げ捨てた。
 腕輪は風磨の姿になった。

「え? なにこれ?」
「すごいだろ、俺の術」
 彼は得意げに言う。

「あいつらを引き付けてこい」
 彼の分身はうなずき、あやかしの警備隊に近づく。

「なんだお前! 動くな!」
 あやかしの警備隊が叫ぶ。直後、分身は走り出した。

「待て!」
 警備隊は一人を残して分身を追いかけ始めた。

「一人残ったか。それくらいなら……竜巻烈風拳!」
 風磨が腕を突き出す。

 竜巻が発生した。二メートルはありそうだった。

 何回聞いても恥ずかしい技名だ、と静穂はもぞもぞした。

 竜巻はごうっと音を立ててとあやかしに近付く。
「うわ!」
 あやかしが慌てて避ける。

「行くぞ!」
 風磨が飛び出す。静穂はそれに続いて駆け出した。