「みずほのいかづち、って何ですか? まさか、本当の名前?」
 静穂は首を傾げる。

「私のあだ名のようなものです」
 雷刀が言う。

「これ! 瑞穂之雷様になれなれしくするでない!」
「いいのですよ。私の妻ですから」

「つま!」
 静穂は思わずつぶやく。

「失礼いたしました」
 あやかしはまた頭を下げた。

「瑞穂之、という形容をつけた二つ名を持つあやかしは少ない。力のあるあやかしにしか許されぬ名だ」
 デンカが説明した。

「すごいんですね」
「結婚にあたり、こちらの勉強をしたはずでは? 家庭教師がついたのですよね?」

「なぜか、その時間だけ異様に眠くなっちゃって」
 ごにょごにょとした言い訳に、雷刀は息をついた。

「離婚はいったん中止です。逃げた男を捕まえなくてはなりません。ですから、あなたは逃げないでくださいね」
「はい」
 素直に答えた。

 時間は稼げた。また次の方法を考えなくてはならない。

「あの恥ずかしい技の名前、心当たりがあります。手配をお願いします」
 雷刀が獄吏に詳しい説明をしようとしたときだった。

「竜巻烈風拳!」
 声とともに、竜巻が室内に発生した。

 天井まで届く竜巻に、静穂は思わず壁に逃げた。

「静穂さん!」
 雷刀の声に焦りが交じる。

「こっちだ!」
 突然現れた風磨に手を引かれ、静穂は転げそうになる。

 風磨に引きずられるようにして走り出す。

「約束どおり助けに来たぞ!」
 風磨が叫ぶ。