竜巻はあやかしに到達する前にするすると消えてしまった。

「あ、あれ?」
 風磨が焦る。

「捕まるわけだわ」
 静穂は力なく笑った。

「笑うなよ、これから本気出す!」

「大人しくしろ!」
 獄吏が大声を上げる。

「退魔師ですか」
 聞き覚えのある声に、静穂はビクッとした。

「大人しく牢に戻りなさい。私は忙しいんです」
 雷刀の声だ。

 静穂は動揺した。と同時になんだかうれしい気持ちがわいてきて、さらに動揺する。

 なんでうれしいなんて思うんだろう。

 暗がりに彼の紫の目が光る。

瑞穂之雷(みずほのいかずち)様、ここは我らが」
 一つ目のあやかしが言う。

「瑞穂の……? 二つ名持ちか!」
 風磨の声に喜色が混じる。

「倒せば名を上げられる!」
「力量も量れぬ愚か者が」
 雷刀の呆れる声がした。
 彼が片手を突き出すと、風磨の体がふわっと浮き上がった。

「わ、わわ! やめろ!」
 叫んだ直後、雷刀が手を翻す。

 ドシャッと風磨が落ちた。

「乱暴はやめてください!」
 思わず静穂は叫んだ。

「先に乱暴を働いたのはこの者ですよ」
 雷刀はまた呆れたように言った。

「くっそー!」
 風磨が立ち上がる。

「竜巻烈風拳!」
 また竜巻が起こる。先程よりは大きかった。高さ五十センチくらいだ。