一時間ほどたったころだろうか。
風磨はまだ柵と格闘している。
「私、いつまでここにいればいいんだろう」
デンカに話しかける。が、返事がない。
さきほどまでいたのに、デンカがいなくなっていた。
「どこへ……」
牢の柵はデンカが通り抜けることができるほどには間があいている。静穂に愛想を尽かして帰ってしまったのだろうか。
この世界で取り残されて、どうしたらいいんだろう。
途端に、心細さが襲ってくる。
近くには怪しげにつぶやく男が一人。
デンカの言う通り、自分は浅はかだった。逃げることだけ考えて、まったく先を見据えていない。
身代わりも、なんとかなるという楽観的過ぎる見通しだった。当時は十二歳だったから仕方ないのかもしれないが。
「壊れた!」
風磨の叫びで、思考から現実に戻った。
見ると、彼の入った牢の柵が、人一人通れるだけ千切れて床に落ちていた。
彼は息を切らしながら通路に出た。
「すぐ助けてあげるよ」
「……ありがとう」
今すがれるのは彼しかいない。やばそうだけど少なくとも人間だし、牢を壊すこともできるようだ。
彼が柵をつかんでなにか唱え始めたときだった。
「お前、なんで外に出ている!?」
獄吏のあやかしの声がした。
「俺は強いからな!」
胸を張って風磨が言う。
「さっきまで捕まってたじゃん」
静穂のつぶやきを、風磨は無視した。
「見よ、俺の技を! 竜巻烈風拳!」
なにそれダサい。
静穂は唖然として彼を見た。
彼が腕を突き出すと、小さな竜巻が出てきた。
「竜巻、ちっさ!」
高さ三十センチほどで、瑞穂にはつむじ風という程度に見えた。