「落ち着いてふたりとも。ここでケンカしても仕方ないよ」
 静穂がオロオロと仲裁すると、二人は、ふん、反目しあった。

 それから、風磨は静穂に言う。
「俺が君を助けてあげるよ!」
「え?」
 捕まっているのに、どうやって助けるというのか。

 いや、助けると言うくらいだから策はあるのだろう。もしかして、わざと捕まったまであるかもしれない。

「ありがとうございます!」
 静穂は期待に目を輝かせた。

「こんな牢、すぐに壊すから!」
 彼は両手を牢の柵に当ててなにかをつぶやく。

 呪文かな、とわくわくして待つ。呪術のようなものを目の前で見るのは初めてだった。祖父は仕事の様子を静穂に見せなかったから。

 だが、いつまでたっても柵にはなんの変化もない。

 まだ?
 聞けずに、待つ。

 次第に彼から焦った様子が窺われるようになってきた。

「無理しないで」
 思わず言っていた。

「大丈夫」
 彼は唸るように答えた。

「でも、なんか無理してるような」
「む、無理じゃない!」
 彼はむきになって反論する。

 無理なんだ。

 悟って、静穂はがっかりした。

「これを壊して、人を助けて帰れば、師匠は俺を認めてくれるはず!」
 彼はぶつぶつとそう言った。

 なんかこの人やばそう。

 静穂は少しずつ壁際に寄った。

 それからも彼は柵をつかんでうんうん唸っていたが、壊れる様子は一切なかった。