あやかし外交官は愛する身代わり妻と離婚したい

「せっかん? なにするの?」
「正座した膝に重石を載せたり、先を割った竹で殴ったり。竹はしなるからな、痛いぞ」

「そんなことするの!?」
「取り調べでそれだからな、実際の刑罰は……」

「やめて、言わないで!」
 怖がる静穂に、デンカはクククと笑う。

「昔の話だ。今はそんなことしない。が、不法入国だからな、罪は重い」
 静穂は大きくため息をつき、座り込んだ。



 しばらくすると、一人の男性が斜め前の牢に連れてこられた。

「離せ! ちくしょう!」

 まだ若い彼はじたばた暴れているが、獄吏らしき大きな一つ目の男に拘束され、逃れられずにいる。

 そのまま牢に放り込まれ、ずでんと転げた。

「人間風情が! おとなしくしていろ!」
 一つ目は怒ったように言い捨て、立ち去った。

「大丈夫?」
 静穂は思わず声をかけ、驚いた。

 大学で退魔師だと騒いでいた人物だった。
 明るい茶色の髪をしていて、くりくりした目のせいで幼く見えた。

「あれ? 君は人間?」
 男は驚いて彼女を見る。

「間違ってここに来ちゃって」
「そりゃ大変だったな。俺は大鐘風磨(おおがねふうま)

「私は静穂です」
「あ! お前、昨日の!」
 風磨がデンカを見て叫ぶ。デンカの目が嫌悪に細められた。

「昨日、どうかしたの?」
「俺が封印しそこねたヤツ! 首輪が俺のかけた封印の証拠だ! あと少しで使い魔にできたのに!」
 そういえば、学校でそんなことを叫んでいた。

「ふいをつかれただけだ。普段ならばお前ごとき!」
 デンカがシューッと威嚇音を出した。