あやかし外交官は愛する身代わり妻と離婚したい

「そんなに馬鹿にしなくてもいいじゃん」
 静穂はむくれて、デンカから顔をそらした。

 直後、人にぶつかった。

「あいた! ちゃんと前をみて歩きなさいよ」
 ぶつかった相手が文句を言う。

「すみません!」
 頭を下げ、それから相手を見て驚いた。のっぺらぼうの女だった。

「ひぃ!」
 思わず小さな悲鳴を上げた。

「驚くなんて失礼な。……ていうか、あんた、もしかして人間!?」
「あ、いえ、私は」

「ちょっとみんな! 人間がここにいるよ!」
 ざわざわと人が集まってくる。

「人間だ、どうしてここに」
「たまに迷ってくると言うが」
「またあやかしを誘拐しにきたんだろ!」
「捕まえてやる!」
 数人の男のあやかしが腕まくりをして前に出だ。

「待って、私はなにも」
 ふと見ると、デンカはいなくなっていた。

 じりっと男達が寄ってくる。

 逃げようにも、人垣に阻まれて動けない。

「大人しくしろ!」

 静穂はあっという間につかまった。大番屋――牢つきの取り調べ施設――に連れて行かれ、牢獄に入れられた。



 閉じ込められて、静穂は呆然とした。
 目の前には木でできた格子がある。押しても引いても動かない。
 荷物も取り上げられてしまった。

「口程にもないな」
 再び現れたデンカが言う。

「今までどこに?」
「お前がどうするのか、隠れて見ていた。あっさり捕まってつまらん」
「つまらんって……」