店を出ると、人通りが増えていた。
「迷子にならないように手をつないでいてくださいね。こちらでは人間が一人で歩いていたら捕まって牢獄行きですよ」
「不法入国でつかまるみたいな?」
「実際、今のあなたは許可なく来てますからね」
えへへ、と誤魔化すように静穂は笑った。
その目に、一人の子供の姿が映った。手に持ったざるには紅葉の形の豆腐が載っていた。
彼はべそをかいて不安そうにキョロキョロと見回していた。
「あの子、大丈夫かな」
「豆腐小僧だな。迷子かもしれん」
デンカが言う。
「声をかけてきます。デンカ、静穂さんについていてください」
「わかった」
雷刀が豆腐小僧に近づき、声をかける。
その隙に、静穂はそろーっと歩き出す。そのまま人混みに紛れて走り出した。
やはり迷子だった、と雷刀が静穂に言おうとしたときには、彼女はすでに姿を消していた。
「静穂さんは、まったく」
雷刀はため息をつく。
だが、まずは豆腐小僧だ。彼女はデンカがついているのだから、滅多なことにはならないだろう。
雷刀は小僧を連れて、交番となっている番小屋に向かって歩き出した。
静穂について歩きながら、デンカはククク、と笑った。
「懲りないやつだな」
「とにかく逃げないと」
「金もない、地理も明るくない、どうやって?」
「あの洞窟からあっちに帰れるんでしょう?」
「あちらからは一本道に見えるが、実際には枝分かれしている。無事に帰れるかな」
「ええ!?」
静穂は思わず立ち止まった。
「洞窟にはよくあることだ。角度によって見え方が違うから、迷う。お前など、出られないまま野垂れ死ぬんじゃないのか」
「怖いこと言わないで」
「まったく無計画だな。浅はかも過ぎると愉快だ」
ククク、とまた彼は笑った。