「だんな、かわいい奥さんにかんざしはどうだい」
「そうしよう」

 奥さんて。

 こんな素敵な人と夫婦だと見てもらえて、なんだか嬉しくなってしまった。

 静穂はそんな自分に動揺した。

 やばい。好きになりかかってる。

 離婚を申し込まれている人なんだから、好きになっても先はないのに。

 先ほど、女性に逃げられたと言っていた。もしかして、好きな人がいたのに政略結婚で別れるしかなかったのだろうか。
 静穂の胸がずきっと痛んだ。

 店主はいくつかのかんざしを持ってきた。

 べっこうのかんざしや、珊瑚玉のついたもの。金でできた花細工に、漆塗りの蒔絵のかんざし。

 静穂の目は紫水晶のかんざしに釘付けになった。

 金の透かし彫りの奥に紫水晶が嵌め込まれている。

 雷刀がそのかんざしを手に取った。

「これが気に入りましたか?」
 たずねられて、とっさに答えられない。

「旦那の目の色だね。奥さん、惚れ抜いてるんだねえ」
 店主がからかうように言う。

「そんなんじゃないです」
 静穂は顔を赤くした。

 彼が逃げられた女性って、どんな人だろう。彼はどうして彼女を好きになったのだろう。今でもその人が好きなのだろうか。

「これにします」
 雷刀が言うと、店主はかんざしを包んで静穂に渡した。

「ありがとうございます」
 受け取った静穂はすぐにバッグにしまった。落としてしまわないように、きちんと。

「かんざしを贈るのは、あなたを守りますという意味があるんですよ。素敵な旦那ですねえ」

 静穂は驚いて雷刀を見た。優しく微笑を返され、静穂はうつむいた。

 きっと彼は、そんな気持ちはかけらもないに違いない。
 そう思って、また胸が痛んだ。