やけになってかじると、生地はほんのり甘くて、あんこが甘い。静穂の好きな粒あんだった。

「美味しい!」
「それは良かった」
 彼はそう言って微笑する。紫の瞳が金色に輝く。

 静穂はどきっとして目をそらした。目の先に、彼と繋がれた手が見えてまたどきっとした。

「あ、あの、手を……」
「逃げるといけませんから、離しませんよ」

「逃げたほうが面白いがな」
 笑うようなデンカの声がした。

 デンカはするすると雷刀をのぼり、肩に乗る。雷刀がお饅頭を渡すと、小さな両手で持ってハムハムと食べ始めた。

「か、かわいい……!」
 静穂はズキュンと胸を撃たれた。

「私よりデンカにときめいてらっしゃるようだ」
 不満そうに雷刀が言う。

「だって、こんなにかわいくて」
 その隣にある雷刀の顔を見て、また目をそらす。

 雷刀の美しい顔は破壊力がありすぎて、かわいいデンカを見ていたいのに、見ていられない。

「私をそんなにお嫌いですか」
「嫌いとかじゃなくて……」

 嫌いなのはむしろあなたの方なのでは。離婚を言い出すくらいだし。思ったが、言えない。

「雷刀、町を案内してやれ」
「私は忙しいんですけどね」

「そんなだから女に逃げられるんだ」
 雷刀は一瞬、怯む。が、すぐに言い返す。

「上司に仕事を押し付けられて、やむなくですよ」
「有能な男は、それでも文の一つや二つ、女によこすものだ」

 言われた雷刀は、う、と言葉に詰まる。

 静穂は意外に思った。

 女性に逃げられたことあるんだ。こんなに美しい人なのに。

 だけどどんなに素敵でも、放っておかれたら気持ちは離れてしまいそうだ。

 静穂も、書類だけの夫とはいえ何年も放って置かれて、わずかながら寂しい気がしていた。

 こほん、と雷刀は咳払いした。