洞窟を出ると、山の麓の森の中だった。
デンカはさらにずんずんと進む。
森を抜けると、江戸時代のような町並みが広がっていた。
「すごい、時代劇みたい」
静穂が感心すると、デンカがクククと笑った。
二人で街へ降りる。
静穂はキョロキョロと周りを見回す。
あやかし学の教科書で見たようなあやかしたちが歩いていた。河童や一つ目小僧、ろくろ首などの有名どころもいれば、見たことのないあやかしもいた。人型は着物を着ていて、動物型の者は着ていたり着ていなかったりした。
「さほど驚かぬのだな」
「驚いてるよ。でも一応、知ってはいたから」
生前の祖父からも聞いたことはあった。雷刀の婚約者となってからはさらにこちらの世界の勉強をさせられた。真剣にやってこなかったが。
「あ、お饅頭」
屋台に団子と饅頭が並んでいる。
静穂は目を輝かせた。が、すぐに表情を曇らせた。
静穂はこちらの通貨を持っていない。
買えないとなるとなおさらおいしそうに見える現象はなんだろう。
通りすがりの岩魚坊主が屋台で団子を買っている。その名の通り、岩魚がお坊さんのような格好をしていた。
いいなあ、と思いながら通りすぎたときだった。
横からスッと手が伸びて、お饅頭が差し出された。
「どうぞ」
「え?」
スーツらしき袖をたどり、腕の主を見た静穂は飛び上がりそうになった。
彼はもう片方の手で静穂の手を掴む。
「おとなしくしてくださいね。まわりに人間だとバレるとどんな目に遭うかわかりませんよ」
彼は優しく微笑して言った。笑顔だけなら甘いのに、言葉はまるっきり脅しだ。
「なんでこんな簡単に見つかるの」
「あの道からは、ここに来るしかないですからね」
雷刀は苦笑した。
「まずはお饅頭いかがですか? 材料は人間の世界と同じですよ」
「ありがとうございます」
静穂はおずおずと受け取った。