「まあ、蒼井さん! その格好はどうしたの?」
ホームルームではバレなかったものの、移動教室のために移動をしようとしたら、担任の先生に見つかった。
年配……とまではいかないものの、お姉さんとは言えない歳の女性だ。
「特に……なにも」
私をいじめている主犯である今野奈緒の視線が痛くて、何も言うことができなかった。それに、わざわざ言うことでもないと思ったのだ。たかが水を被ったくらいで。
彼女は不真面目の範疇に入るので、授業にもよく遅刻してくる。
今日もまだ教室に残っていた。
……私を監視するためなのかもしれない。
自意識過剰だろうか。
「……あら、そう? なら、濡れた髪で学校に来ないでほしいわ。あ、これは学校にくるな、って意味じゃなくてね。濡れた髪で登校するのはやめてほしいの。学校の風評にも関わるから」
本当は違う。
そう、言いたかった。
でも、私はここで動くほど馬鹿じゃない。
まだ、監視の目があるのだ。
「……はい。気をつけます」
先生は、言うことだけ言って満足したのか、それとも次の授業が始まるからなのか、そそくさと教室を出ていった。
「……ふっ……ふふっ……ふはははっ!! 蒼井、あの先生、嫌味ったらしいねぇ〜。みんな聞いた? 『学校の風評に関わるから』だって〜!」
「はははっ! 奈緒、めっちゃ似てるんだけど!」
「…………」
「あれ? ちょっと、何黙ってんの〜? せっかく慰めにきてやったのに」
「……それはどうも」
彼女は、まだ笑いを堪えきれないのか、手を押さえて笑っている。
そのせいか、私の声は届いていなかったようだ。
でも、届かなくて良かったかもしれない。
届いたら届いたで、面倒だっただろうから。と、そんな私の思いとは裏腹に、最悪なことが起きた。
「ねえ、奈緒ちゃん。今の蒼井さんの言葉聞いた?」
「……え?……ぷっ、あははっ、んー、何? ははっ……北条?」
彼女は、一息ためていった。
私の本能は彼女の言う言葉を止めなければ、ということだった。
でも、私は間に合わなかった。
「……どうも、だって。ねえ、奈緒ちゃん。偉そうじゃない?」
「は?」
「あ…………」
私は今日二回目の突き飛ばしをくらった。
「っ……!」
……いた……っ!
「うっさいんだよ、ブスが!」
彼女が私の胸ぐらを掴んだ。
「……ご……めん」
「は? ごめんなさい、だろ? タメ語使うなよ」
同学年でしょうが、とは言えるはずがない。
北条ときあ。彼女は、大人しそうに見えて、意外と悪魔だった。
私の一言一句聞き逃さないし、短気な今野奈緒を煽るようなことばかりを言っている。
ある意味、一番怖い女なのかもしれない。
「ほら! 謝れよぉ!」
「ごめん……なさい」
嫌なのに。言いたくないのに。
私はいつもこうだ。
負けてばかりだ。
彼女たちは私を睨みながら、移動教室の元へと歩いていった。
私は突き飛ばされたときに足を挫いたのか、痛くて立つことができなかった。
……教室に……行かなきゃ、行けないのに。
誰か、この事態を知らせてくれる生徒はいないのだろうか。
いないだろう。
私と今野奈緒が話しているときに影のようにひっそりと教室から出ていく生徒たちが数人いた。
知らせてくれる生徒など、いるはずがなかった。
しばらくすると、足音が聞こえた。
「おい! どうした!? なんかすごい声がしたが……」
「あ……先生……」
その人は、生徒に人気のある数学の先生だった。
顔が良く、スタイルも良い。誰にでも優しいので、みんなに好かれている。もちろん、今野奈緒にも。
……この先生のこと、気になってるとか言ってたっけ。
その頃は、馬鹿だなぁ、と思いながら聞いていた。
その顔を見ると、確かに良い。
今まで、授業さえ受けれたら良かったから、先生の顔なんて一々気にしていなかった。
「足、怪我してるのか!? 何があった?」
とりあえず保健室に行こう、と先生は手を差し伸べる。
「あっ、足痛いもんな。馬鹿だなーごめん、手伸ばしても意味なかった。ほら。捕まって」
そう言って、肩を貸してくれた。
「先生……」
「ん?」
「ありがとうございます」
先生は、屈託な笑顔を浮かべたて、「何の何の! こういうのも俺の仕事よ!」と言った。
その元気さに、思わず笑みが零れる。
「でも、先生……」
「来るの、ちょっと遅かったです」
すでに、彼女たちはいなくなっていた。
ホームルームではバレなかったものの、移動教室のために移動をしようとしたら、担任の先生に見つかった。
年配……とまではいかないものの、お姉さんとは言えない歳の女性だ。
「特に……なにも」
私をいじめている主犯である今野奈緒の視線が痛くて、何も言うことができなかった。それに、わざわざ言うことでもないと思ったのだ。たかが水を被ったくらいで。
彼女は不真面目の範疇に入るので、授業にもよく遅刻してくる。
今日もまだ教室に残っていた。
……私を監視するためなのかもしれない。
自意識過剰だろうか。
「……あら、そう? なら、濡れた髪で学校に来ないでほしいわ。あ、これは学校にくるな、って意味じゃなくてね。濡れた髪で登校するのはやめてほしいの。学校の風評にも関わるから」
本当は違う。
そう、言いたかった。
でも、私はここで動くほど馬鹿じゃない。
まだ、監視の目があるのだ。
「……はい。気をつけます」
先生は、言うことだけ言って満足したのか、それとも次の授業が始まるからなのか、そそくさと教室を出ていった。
「……ふっ……ふふっ……ふはははっ!! 蒼井、あの先生、嫌味ったらしいねぇ〜。みんな聞いた? 『学校の風評に関わるから』だって〜!」
「はははっ! 奈緒、めっちゃ似てるんだけど!」
「…………」
「あれ? ちょっと、何黙ってんの〜? せっかく慰めにきてやったのに」
「……それはどうも」
彼女は、まだ笑いを堪えきれないのか、手を押さえて笑っている。
そのせいか、私の声は届いていなかったようだ。
でも、届かなくて良かったかもしれない。
届いたら届いたで、面倒だっただろうから。と、そんな私の思いとは裏腹に、最悪なことが起きた。
「ねえ、奈緒ちゃん。今の蒼井さんの言葉聞いた?」
「……え?……ぷっ、あははっ、んー、何? ははっ……北条?」
彼女は、一息ためていった。
私の本能は彼女の言う言葉を止めなければ、ということだった。
でも、私は間に合わなかった。
「……どうも、だって。ねえ、奈緒ちゃん。偉そうじゃない?」
「は?」
「あ…………」
私は今日二回目の突き飛ばしをくらった。
「っ……!」
……いた……っ!
「うっさいんだよ、ブスが!」
彼女が私の胸ぐらを掴んだ。
「……ご……めん」
「は? ごめんなさい、だろ? タメ語使うなよ」
同学年でしょうが、とは言えるはずがない。
北条ときあ。彼女は、大人しそうに見えて、意外と悪魔だった。
私の一言一句聞き逃さないし、短気な今野奈緒を煽るようなことばかりを言っている。
ある意味、一番怖い女なのかもしれない。
「ほら! 謝れよぉ!」
「ごめん……なさい」
嫌なのに。言いたくないのに。
私はいつもこうだ。
負けてばかりだ。
彼女たちは私を睨みながら、移動教室の元へと歩いていった。
私は突き飛ばされたときに足を挫いたのか、痛くて立つことができなかった。
……教室に……行かなきゃ、行けないのに。
誰か、この事態を知らせてくれる生徒はいないのだろうか。
いないだろう。
私と今野奈緒が話しているときに影のようにひっそりと教室から出ていく生徒たちが数人いた。
知らせてくれる生徒など、いるはずがなかった。
しばらくすると、足音が聞こえた。
「おい! どうした!? なんかすごい声がしたが……」
「あ……先生……」
その人は、生徒に人気のある数学の先生だった。
顔が良く、スタイルも良い。誰にでも優しいので、みんなに好かれている。もちろん、今野奈緒にも。
……この先生のこと、気になってるとか言ってたっけ。
その頃は、馬鹿だなぁ、と思いながら聞いていた。
その顔を見ると、確かに良い。
今まで、授業さえ受けれたら良かったから、先生の顔なんて一々気にしていなかった。
「足、怪我してるのか!? 何があった?」
とりあえず保健室に行こう、と先生は手を差し伸べる。
「あっ、足痛いもんな。馬鹿だなーごめん、手伸ばしても意味なかった。ほら。捕まって」
そう言って、肩を貸してくれた。
「先生……」
「ん?」
「ありがとうございます」
先生は、屈託な笑顔を浮かべたて、「何の何の! こういうのも俺の仕事よ!」と言った。
その元気さに、思わず笑みが零れる。
「でも、先生……」
「来るの、ちょっと遅かったです」
すでに、彼女たちはいなくなっていた。