食事の途中で席を立つのは作法に反するし、聞えよがしの内緒話から逃れることはできなかった。
「朱雀の娘なんて嫁にするべきじゃなかったのよ」
その言葉に、珠夏は胸を痛めてうつむいた。敵意に満ちた視線が突き刺さるかのようだった。
「火剋金、火は金を溶かす、だから白虎より強いとか言い張ってるけど」
「結局は鳥ふぜい。どちらが強いかは明らかよねえ」
「しかも出来損ないの妹が嫁に来るなんてね」
「耀斗様、おかわいそう」
「てっきり黎羅様と結婚されると思ったのに」
別の女中がつぶやく。
麒堂黎羅は麒麟の一族の中でも本家の娘で、二十二歳。変化もできる上、麒麟の血をひくために、空を駆けるその足は誰よりも早い。
珠夏も見かけたことがあるが、遠目に見ても美人だった。青みを帯びた黄金の髪に鬱金のような黄金の瞳をしていた。
彼女は現在、虎守の家に下宿している。大学が近いためにそうなったと聞いていた。
「麒麟のほうが格上だから繋がりがあると得だし、土生金、土は金を生む。そのほうがよかったわよねえ」
「この前も黎羅様と仲睦まじく歩いてらして」
珠夏は不安になった。
彼は結婚したくなかったのだろうか。本当は黎羅と結ばれたかったのだろうか。
女中の冷笑に耐えて食事を終えた珠夏は、ため息をついて自室に向かう。
ふと廊下から窓の外を見ると、耀斗と黎羅が並んで歩いているのが見えた。
二人は楽し気に語らいながら歩いている。
急に苦しくなった。締め付ける痛みに、手を胸に当てた。
嫉妬だ、と気が付いて愕然とした。
二度しか会ったことがない。三度目が結婚式で、夫婦だというのにキスすらしたことがない。式を挙げてからも寝室は別で、ろくに顔も会わせない。
なのに、もう恋をしていた。
だけど同時に、耀斗が怖くて仕方がなかった。
食べちゃいたい、と言う言葉が猫に襲われた恐怖と連結して、同じ屋根の下に彼がいると思うだけで心臓がどきどきして耐えられそうになかった。
だから、離婚を申し出た。
その結果の軟禁だ。
「朱雀の娘なんて嫁にするべきじゃなかったのよ」
その言葉に、珠夏は胸を痛めてうつむいた。敵意に満ちた視線が突き刺さるかのようだった。
「火剋金、火は金を溶かす、だから白虎より強いとか言い張ってるけど」
「結局は鳥ふぜい。どちらが強いかは明らかよねえ」
「しかも出来損ないの妹が嫁に来るなんてね」
「耀斗様、おかわいそう」
「てっきり黎羅様と結婚されると思ったのに」
別の女中がつぶやく。
麒堂黎羅は麒麟の一族の中でも本家の娘で、二十二歳。変化もできる上、麒麟の血をひくために、空を駆けるその足は誰よりも早い。
珠夏も見かけたことがあるが、遠目に見ても美人だった。青みを帯びた黄金の髪に鬱金のような黄金の瞳をしていた。
彼女は現在、虎守の家に下宿している。大学が近いためにそうなったと聞いていた。
「麒麟のほうが格上だから繋がりがあると得だし、土生金、土は金を生む。そのほうがよかったわよねえ」
「この前も黎羅様と仲睦まじく歩いてらして」
珠夏は不安になった。
彼は結婚したくなかったのだろうか。本当は黎羅と結ばれたかったのだろうか。
女中の冷笑に耐えて食事を終えた珠夏は、ため息をついて自室に向かう。
ふと廊下から窓の外を見ると、耀斗と黎羅が並んで歩いているのが見えた。
二人は楽し気に語らいながら歩いている。
急に苦しくなった。締め付ける痛みに、手を胸に当てた。
嫉妬だ、と気が付いて愕然とした。
二度しか会ったことがない。三度目が結婚式で、夫婦だというのにキスすらしたことがない。式を挙げてからも寝室は別で、ろくに顔も会わせない。
なのに、もう恋をしていた。
だけど同時に、耀斗が怖くて仕方がなかった。
食べちゃいたい、と言う言葉が猫に襲われた恐怖と連結して、同じ屋根の下に彼がいると思うだけで心臓がどきどきして耐えられそうになかった。
だから、離婚を申し出た。
その結果の軟禁だ。