だからこそ紅羽は余計に珠夏の心配をしてくれたのだ。

 大丈夫、と珠夏は答えた。

 怖い思いをさせない。
 一面の芝桜が咲き乱れる中、彼は微笑してそう言ってくれた。

 だから彼を信じようと思っていた。気持ちが一変することになるなんて、このときはまったく想像もしていなかった。

 式の直前、彼は珠夏に会いに来た。
 紋付袴を着た彼は一段と素敵で、珠夏はただ彼に見惚れた。

 彼は珠夏を見て微笑して言った。
「かわいいね……食べちゃいたい」

 刹那、背筋を悪寒が走った。

 猫に襲われた恐怖が蘇る。

 スズメになっている珠夏に、牙を剥いてとびかかってくる猫。

 慌てて飛ぼうとしながら避けると、翼に爪がかすった。

 焦ったせいでうまく飛び立てずにいると、猫はまたとびかかって来た。

 必死に翼を動かして舞い上がった。

 心臓がばくばくして、破裂するかと思った。

 気が付くと人の姿に戻って自宅である屋敷の中にいた。

 それ以来、まったく変身できなくなってしまった。

 人間の姿なら猫に食べられることはない。
 そう思って自分をなだめ、なんとか外出できるようになった。

 だが、根底にある恐怖感は拭えないまま、見るだけで動けなくなるほどだった。

 犬に襲われている白っぽい猫を見たときも、犬より猫のほうが怖くてしょうがなかった。

 耀斗が人の姿をしていたから油断した。

『白虎は朱雀を捕まえては食べるんですよ!』
 おばばの脅す声が蘇る。

 彼は自分を食べるために嫁に呼んだのかもしれない。

 式の間中、珠夏は震えていた。

 珠夏はその晩、熱を出した。
 耀斗が見舞いに来たとき、珠夏は錯乱したように暴れてそれを拒否した。



 結婚式の翌日、その話は屋敷中に広まっていた。

 女中は珠夏を見るたびにひそひそ話をした。

 昼食に食堂に行くと、そこでも小声で、だけど聞こえるように女中たちが話をする。