白、薄紅、ピンク、紫の芝桜がゆるやかな丘陵を絨毯のように覆っている。幾何学模様に配置され、明るい日差しを浴びて輝くようだった。

「きれいですね」
 うっとりと眺めると、彼はまた優しく微笑した。

「あなたほどではないよ」
「そんな、私なんて……」

「銀朱の髪に淡い金の瞳が綺麗だ。朱雀の特徴が良く出ている」
「でも、姉ほどではないです。私は変身もできません」

 姉は真朱(しんしゅ)の髪に濃い黄金の瞳をしている。朱雀の血を引くものは鳥に変化する能力を持つことがあるが、姉は鷹に変身することができる上、火を吐くことができた。

「以前はできたと聞いているけど」
「子供のころ、スズメになったことがあります」

 スズメなんて貧弱なと笑われるかもしれない。彼女はうつむいた。

「かわいいね。朱雀の漢字にもスズメが使われているし、朱雀のひなという説もあるし、スズメこそが朱雀だという説もある。厄をついばむ鳥として縁起がいい」

 彼がそう言ってくれて、うれしかった。だが、素直に喜ぶことなどできなかった。

「でも……」
 珠夏は言い淀んだ。

 風がさらりと吹いた。木々がさわさわと囁くように木の葉を揺らした。
 珠夏は意を決して、説明した。

 スズメであっても変化(へんげ)は珍しいので、周りからは褒められた。子供ながらに調子にのっていた。

 ある日、スズメに変身して飛んでいた。疲れて地面に降りたとき、猫に襲われた。

 必死に逃げて助かったが、それ以来、変身できなくなった。

 食べられそうになった恐怖が拭えなくて、外出も激減した。

 珠夏はそこまで言って口を閉ざした。

 自分の失態の話に、恥ずかしくて消えたくなった。

 顔を赤くしてうつむいていると、耀斗が珠夏を抱きしめた。

 驚く彼女にかまわず、彼は珠夏の頭をなでる。

「怖かったね」

 言われて、じわりと涙が浮かんだ。

 こんな間抜けな話、笑われても仕方がないと思っていた。

 なのに、彼は受け入れて慰めてくれている。