珠夏がなにかいたずらをしたり、習い事をさぼったりすると、

「白虎が食べに来ますよ!」
 と脅すように叱られた。

 だから怖くてしかたがなかった。

 珠夏がそれを言うと、両親は「食べるわけないだろう」と一笑に付した。

 迷信で縁を切ることもあるまい。和解の席でお会いしたが、良い青年だった。
 父はそう言った。

 会ってみて、それでも嫌なら断ればいいのですよ。
 母はそう言った。

 姉の紅羽(くれは)はすでに婚約していて、直系の独身女性は珠夏しかいなかった。

 まだ早い、と紅羽は珠夏に味方して反対してくれた。姉はいつも珠夏を守ろうとしてくれてありがたかった。

 結局、珠夏は振袖を着てお見合いの席に出向いた。

 初めて見たとき、珠夏は目を疑った。

 美しい、と思った。その形容詞を男性に使う日が来るとは思っても見なかった。

 白金の髪も煌めく瞳も、珠夏の心を一瞬でとらえた。

 彼は若草色の色紋付きを着ていた。袴は薄墨色だ。

 若草色が彼の雰囲気をやわらげ、なのに全体のシルエットは直線的で凛々しく、年齢以上の貫録があるように見えた。

 緊張してしまって、ろくに話もできなかった。

 この縁談は流れるだろう。安堵とともに落胆がよぎった。

 後日、親を通してお出掛けの誘いがあったときには心底驚いた。

 行くよね、という親の圧力もあり、仕方なく珠夏は出掛けた。だけど、心のどこかに期待もあった。

 当日、彼は車を運転して迎えに来た。

 車を自分で運転する、それだけで耀斗が大人に感じられた。

 再び会った彼は現代的でカジュアルな服装だった。前回とは違う溌剌(はつらつ)さもまた珠夏の胸を高鳴らせた。

 耀斗は彼女を芝桜で有名な公園に連れて行った。

 到着して驚いた。自分たち以外の客が一人もいなかったから。

「あなたとゆっくり話したくて、貸し切りにしたよ」
 彼は優しく微笑して言った。

 珠夏は思わず胸をおさえた。そうしても早まる鼓動はちっとも収まる気配はなかった。

 彼に連れられて、ゆっくりと園内を散策した。