彼は気付いているのだ。それでも彼女の口から言わせようとしているのだ。わかって、珠夏は恥ずかしくなった。

「芝桜が綺麗ですね!」
 珠夏は顔をそらして芝桜を見た。

「はぐらかし方が無理矢理すぎる」
 耀斗は苦笑した。

「俺はまたあなたを閉じ込めてもいいということかな?」
「それは嫌です」
 慌てて珠夏は答える。

 珠夏は再び口を開き、だけど結局はなにも言えずに黙る。
 なんどかそれを繰り返すと、耀斗はまた苦笑した。

「離婚は取り消し、それでいいかな?」
 珠夏はすぐさまうなずいた。

 彼を見ると、まっすぐに自分を見るダイヤモンドの瞳と目があった。

「俺はあなたを愛し続けていいんだね?」

 珠夏はびくっとして、それから顔を真っ赤にしてうなずいた。

「私も、好きです」
 消え入るような小さな声だった。

 耀斗は満面に笑みを刻み、それから珠夏を抱きしめた。

「今まで我慢したぶん、たくさん愛する。覚悟して」
「覚悟って……」
 戸惑う珠夏に、彼はまた微笑した。

 珠夏の心臓がどきどきと鼓動を早くする。

 彼の手が珠夏の顎を上向かせる。
 珠夏はそっと目を閉じた。

 青い空の下を、小鳥がすいっと横切る。
 芝桜はかすかな風に揺れ、花びらを陽光にきらめかせた。





* 終 *