「俺はそんなことは思ってないよ」
 耀斗もまた立ち上がり、珠夏の頭を上げさせた。

「だけど……私を助けようとしてくださって」
 炎に包まれた自分にまっすぐに歩いて来た彼を思い出し、胸が痛くなる。

「あなたの炎は俺を焼かないと信じていた」
 珠夏は目をしばたいて彼を見た。

「あなたは優しいから、必ず炎を収めてくれると思っていた」
「なんの保証もないですのに」
 そんなのは勇気を通り越して蛮勇だ。

「だが、その通りになった」
「なぜそこまで」
「愛しているから」
 愛しさのこもった目で見られて、珠夏の心臓がどきんと鳴った。

「あなたの一生を閉じ込めてしまいたいほどに愛している。だが、俺にそんな権利はない。本当に愛しているならあなたを自由にするべきなのだとわかっている。だから」
 耀斗は苦しそうにうつむいた。

 離婚を受け入れると言いながら、愛を告白された。

 珠夏は混乱した。

 そもそも離婚を言い出したのは自分だ。

 だけど、離婚したかったのは、耀斗が他の人を好きだと思っていたからだ。

 彼が忙しくしていた一週間、ずっと頭にあったのは耀斗のことばかりだ。

「い、一族の和解がかかってるから離婚はだめって、耀斗さんが……」
「言ったね」

「一生をともにするって誓ったって、耀斗さんが……」
「それも言ったね」

 珠夏は居心地悪く居住まいを正した。

「猫は無理ですけど、虎なら……」
 平気です、と言いかけて、やめた。それではまるっきり嘘だ。猫も虎も怖いまま。だから、言い直した。

「平気に、なりたいな、と……」
「つまり?」
 耀斗は結論をうながす。

 察してよ、と思って珠夏は耀斗を見る。

 彼はまばゆい笑顔で彼女を見下ろしている。