違和感があってよく見ると、その部屋には窓がなかった。

 彼は長椅子にそっと彼女を下ろし、見つめる。
 珠夏はそれだけで恐怖に強張り、動けなくなった。

「白虎と朱雀は長く対立してきた。和解したとはいえまだぎくしゃくしている。それを解消するためにも、婚姻は継続しなければならない」

 説得というより命令のように響いた。

 だけど、と反論しようとするが、珠夏はなにをどう言ったらいいのかわからない。

「しばらく忙しい。展示会が終わったらゆっくり話をしよう」
 そう言って彼は部屋を出た。直後、がちゃっと錠の下りる音がした。

 珠夏は慌てて扉に駆け付け、取っ手をひねる。
 が、扉は開くことがなかった。

「閉じ込められた……」
 珠夏は愕然と茶色の扉を見つめた。



 珠夏はため息をついて長椅子に座り直した。
 しばらくすると、女中が脚車のついた木製の配膳台でお茶と茶菓子を持って来た。

 朱雀のような赤い鳥が描かれた和風の茶椀(ティーカップ)だった。九谷焼かな、とその鮮やかな色彩を眺める。中には珠夏の好きな抹茶ミルクが注がれていた。小皿に載った白い淡雪羹(あわゆきかん)とともに卓子(テーブル)に並べられた。

 ちらりと扉を見ると、スーツ姿の戸良内亮太(とらうちりょうた)が塞ぐように立っていた。四十過ぎとは思えない鍛えられた体をしている。

 彼は耀斗の付き人で、耀斗に心酔している。朱雀を毛嫌いしていて普段から冷たい。珠夏がどれだけ頼んでも外に出してくれることはないだろう。

 女中が出て行くと、また扉には鍵が掛けられた。

 珠夏は抹茶ミルクを口にする。まろやかな口あたりに、またため息をもらした。

***

 耀斗とお見合いをしたのは珠夏がまだ十七歳、高校生のときだった。そのとき耀斗は二十歳で大学生だった。

 珠夏は最初、縁談を嫌がった。

 猫にトラウマがあったし、子供のころに世話をしてくれたおばばの話が怖かったせいもある。

 白虎の一族はかつて朱雀の者を捕まえては食べていた、と子供のころに聞かされた。