「猫が怖いのに助けてくれた。その優しさに、あなたのことが好きになった」
「たった一度のことで」

「それで充分だ」
 彼に見つめられ、珠夏は顔を伏せた。顔がどんどん熱くなっていく。

「だけど、結婚まで一度も連絡をくれなくて……式を挙げたあとも会うことがなくて……」
「俺はなんどもメールをしていた」

「私はそもそもメアドをお教えしてません」
 珠夏は困惑し、それからハッとした。紅羽がメールに言及していたことがあった。

「もしかして、姉が」
 それだけで、彼も気付いた。

「連絡先を聞きそびれたから、ご両親を介して連絡先を……メアドを教えてもらった。お姉さんがなりすましていたのか」

 そんなことない、とは言えなかった。過保護な姉ならやりかねない。

「その様子では贈り物もあなたの手元には届いてないな」
「ごめんなさい。全然知りませんでした」

「仕方ない。もう過ぎたことだ」
 耀斗は苦笑した。

「会いに行かなかったのはあなたが俺を嫌っていると思ったからだ」
 珠夏は目を丸くして彼を見た。

「結婚式の夜、お見舞いに行った俺を、暴れるほどに嫌がっておいでだった。だからあなたに会いに行くのを控えた」
「あれは……」
 珠夏は目をさまよわせ、言葉を切った。

 自分を抱きしめるようにして、ぽつりと言う。

「嫌いじゃなくて、怖かったんです」

 耀斗が珠夏を見る。
「俺、そんなに怖いかな?」

 珠夏は迷ったが、結局はうなずいた。
「食べちゃいたいって言われて、怖かったんです」

「え?」
 耀斗が驚く。

「猫に食べられそうになったことを思い出して……」
「そんなことがトリガーになったのか」
 耀斗は呆然とつぶやいた。