が、その手を耀斗がつかみ、引っ張り下ろされた。

「あなたがいない世界など考えられない。あなたの炎で焼き尽くされるなら本望だ」
 炎にかまわず、彼は珠夏を抱きしめる。

 逃れようとする珠夏の頭をとらえ、自分に向かせる。

 直後、彼女に唇を重ねた。

 珠夏は驚き、目を見開いた。
 
 耀斗の端正な顔が至近距離にあった。

 ダイヤの目が迷いなく自分を見つめ、やわらかな唇は珠夏をとらえて離さない。

 しばらくして、彼が唇を離す。だが、その熱は珠夏の唇に残ったままで、彼女は顔を赤くした。 

「愛している」
 彼の言葉に、珠夏はただ彼を見つめた。

 いつしか炎は消えていた。翼も消えて、ただの珠夏が耀斗の腕の中にいた。

「ありがとう、戻って来てくれて」
 耀斗の腕に力がこもる。

 珠夏は呆然と立ち尽くす。

 満開の桜に見守られ、耀斗はしっかりと彼女を抱きしめ続けた。



 珠夏は彼に連れられて虎守の家に戻った。

 紅羽は珠夏を焔宮家に連れ帰ろうとしたが、耀斗が断固として断った。珠夏もまた彼の家に行くことを選んだため、紅羽はしぶしぶ引き下がった。

 ショーも展示会も中止された。火事もなく負傷者がいないのが幸いだった。

 姉の炎に焼かれた珠夏は、それでも無傷だった。

 変化の力が傷までも治したのだ、と耀斗は彼女に説明した。原理は彼自身も知らないが、彼もまた変化で傷の治癒を経験したことがあるから知っていた。

 湯を浴びて服を整えると、珠夏は耀斗に寝台に寝かされた。

「ゆっくり休んで」
「大丈夫です」

「休んでくれないなら、また閉じ込めるよ?」
 いたずらっぽく言われて、珠夏はおとなしく布団をかぶった。

「しばらく、あとかたづけで忙しくなる。だけど今度は逃げずに待っていてくれるね?」
「はい」
「良い子だ」
 耀斗は珠夏のおでこに口づける。

 珠夏は真っ赤になった。
 ふっと笑って、耀斗は珠夏の部屋を出た。

 珠夏は布団を頭までかぶった。耀斗にキスされたおでこが熱くて、両手を当てて目を閉じた。