彼女が再び翼を広げたとき、耀斗ははっとした。

 止めなくては。
 今止めなくては、彼女は二度とこちらへ……人の側へ戻ってこれなくなるかもしれない。

「珠夏さん!」
 声に、珠夏が振り返った。

 薄い金色の瞳は彼女自身の炎を反射し、銀朱に煌めいた。

***

「珠夏さん、こちらへ」

 差し出された耀斗の手に、珠夏は戸惑う。

「私、行かなくちゃ」
「どこへ?」

「わからない。だけど、行かなくちゃ」
「行くな」
 耀斗は一歩を近付く。

 珠夏は目をまばたいた。
 自分は今、炎を発している。生身で近付けばただではすまない。

「あなたは私の妻だ。一生を共にすると誓った」
「でも……」
「今、迎えに行く」
 耀斗は迷いなく近付く。

 珠夏は思わずあとじさった。
「だめ、あなたが燃えてしまいます!」

「あなたの炎は俺を焼かない」

 なんの根拠があるというのか、珠夏にはわからない。

「俺が心配なら、元の姿に戻って」
「戻ったつもりなんです。でも、こんなに炎が出て」
 珠夏はさらに後退しようとして気が付いた。

 このままでは桜の木に引火してしまう。彼が身を挺して守ろうとした桜たちに。

「だめです、来ないで!」
 だが、耀斗は一歩ずつ着実に近付いてくる。

 珠夏は咄嗟に飛び上がろうとした。