紅羽は迷うように上空に留まっていたが、やがてゆっくりと地上に降りた。そして、変化を解いて人の姿に戻る。

「ありがとう、お姉ちゃん」
 珠夏もまた地上に降り立った。

 変化を解いた珠夏は、だが異変に気が付いた。

 自身から伸びる炎がおさまらない。

 人の姿にはなったものの、翼が背から伸びている。先ほどは腕が翼のように感じたのに、今は腕と翼の両方の感覚がある。

 どうして。
 珠夏は困惑する。

 体が燃えるように熱い。
 そのまま飛び上がりたい衝動に駆られる。

 空へ、自由な空へ舞い上がりたい。

 人の(くびき)など捨て、不自由な地上など離れて、空へ。

 急な焦燥が胸を焦がす。

 空は自由だ。

 舞い上がったら、二度と地上へ戻りたいなどとは思わないだろう。

 翼をばさりと広げたときだった。

「珠夏さん!」
 声が聞こえて、珠夏はそちらを見た。

 耀斗が、焦ったように珠夏を見て立っていた。

***

 珠夏が朱雀になったとき、耀斗はその姿を呆然と見つめた。

 スズメにしかなれなかった、と珠夏は言っていた。
 だが、今ここにいるのは朱雀だ。

 炎を家来のように従え、大きく空を舞っている。

 もしや、彼女は完全な変化をしたのではないのか。

 耀斗の胸に不安がよぎる。
 朱雀は彼を守るように紅羽にたちふさがった。

 紅羽が地上に降り、彼女もまた地上に降り立つ。

 だが、不完全な変化の解除に、耀斗は顔をしかめた。彼女が人よりも朱雀に近くなったような予感がした。