「動いてはなりません。お怪我が悪化します」
 彼の優しい制止に、珠夏は驚いた。

「私のこと、嫌いなんじゃ……」
「それとこれとは別です」
 珠夏は思わず微笑した。人としての道を通す彼ならば、いつか理解しあえる気がした。

 だが今は。

「私は二人を止めなければなりません」
「しかし」
「お願いです」

 珠夏は真摯な目を向けた。
 亮太はその目を見つめ返す。
 が、根負けしたように目を逸らし、手を離した。

「決して無理をなさいませんよう」
「はい」
 珠夏はうなずく。

 ふらつきながら、珠夏は歩き出した。

 紅羽の炎は勢いを増し、耀斗が威嚇のために繰り出す爪は紅羽の翼をかすめる。

 さらに一歩を進めたとき、足から力がぬけた。がくっと膝をつき、両手を地面につく。

 紅羽の炎が耀斗を焼こうと放たれる。

「やめて、お願い」
 つぶやいて、必死に立ち上がった。

 動け。

 自分の四肢に必死で命令する。

 動け、私。

 二人を止めるの。止めないといけないの。

 ひきずるように一歩を踏み出す。

 体がずるりと地面に落ちる。

 だめ、動いて。

 必死に重い体を持ち上げようとする。

「珠夏さん!」

 気づいた彼が叫ぶ。

 駆け寄ろうとする白虎は、一瞬にして人の姿に戻った。

 怖がらないようにしてくれている。

 思って、胸が熱くなった。

 必死に立ち上がる。

 熱くなったのは胸だけではなかった。