耀斗が危ない。
 珠夏はさらに震えた。

 紅羽が(くちばし)を開いた直後。

「やめて!」
 珠夏は思わず飛び出していた。

 とっさに紅羽は息を止める。
 が、一瞬遅く、珠夏の背が炎に焼かれた。

 珠夏は声もなく地面に倒れた。炎はすぐに消えたが、珠夏は動く様子がない。

「珠夏!」
「珠夏さん!」
 彼女は呼びかけにも応じない。

「お前のせいで!」
 紅羽はさらに白虎に炎を向ける。

「怒りで正常な判断を失くしたか!」
 耀斗は珠夏をくわえてとびすさる。

 桜の根元に彼女を横たえ、再び紅羽に向き合う。
 珠夏はもうろうとしながらそれを見た。

「やめて……」
 漏れ出た声は小さくて、とうてい二人には届かない。

 なぜ二人が戦わなくてはならないのか。

 珠夏の目に涙が浮かんだ。

 自分のせいだ。
 自分が迂闊に離婚を口にして、安易に逃亡の誘いに乗った。
 そもそも結婚を承諾しなければ良かった。

 自分の間違った判断のせいで、二人は戦っている。

 止めなくちゃ。

 珠夏は必死に体を起こした。背に激痛が走り、どしゃっと体が落ちた。

 だが、再び腕に力を込めて体を起こす。

 大丈夫、動ける。
 歯を食いしばって立ち上がろうとする彼女の前に男が立ち塞がった。

 亮太だった。