紅羽は耀斗をめがけて急降下した。

 彼は寸前までひきつけて避ける。

 地面すれすれで紅羽は舞い上がる。

 珠夏は黎羅を見た。
 彼女はびくっと体を震わせた。

「私が姉を止めるから、あなたは耀斗さんを止めて!」
 黎羅は震えて首を横にふる。

「耀斗さんの恋人でしょう? 愛する人がどうなってもいいの?」
「つきあってなんかない」
 そう言う声もまた震えていた。

「さっき、つきあってるって」
「そんなの嘘よ。本当につきあってたら小細工なんてしないもの」
 珠夏は唖然とした。

「とにかく、私は関係ないから!」
 黎羅は麒麟に変化するやいなや、走り出した。
 空を駆けて、あっという間に見えなくなる。

「逃げ足、はや……」
 珠夏は呆然と見送ってから、はっとした。

 耀斗と紅羽はまだ戦い続けている。

 耀斗は防戦一方だった。
 白金の毛はあちこちが焼けこげている。

 紅羽がまた炎を吐いた。
 桜を背にして、耀斗はあえて火をかぶった。

 桜を守っている、とすぐに気が付いた。

 彼が()き止めたおかげで炎は木に届いていない。変化の状態の彼は金属の性質のおかげですぐに焼けることはないが、それでも浴び続けたらただではすまない。

 早く止めに行かなくては。
 そう思うのに、珠夏の足は縫い留められたように動かなかった。

 白虎に変化した彼の見た目はまるで大きな猫だ。
 猫に襲われた恐怖が蘇り、震えた。

 白虎の繰り出す爪が陽光を浴びて攻撃的に光った。この爪をくらえばひとたまりもないだろう。

 紅羽が大きく息を吸う様子が目に入った。炎を吐くための予備動作だ。