もはや観覧客の半分が彼らを見ていた。
「とにかく、落ち着いて。一緒にあちらへ」
 誘導しようとする耀斗に、紅羽は息を吐いた。息とともに炎が走った。

 とっさに耀斗はよける。
「なにをなさる!」
「素直に返せばいいものを」

「どうか冷静に。誤解をなさっておいでだ」
「ごまかされると思うてか!」
 紅羽は鷹の姿に変化(へんげ)した。

 観覧客はもはや、ショーではなく二人を見つめている。
 イベントの一環なのかトラブルなのか、判断しかねた人々がさざめきあう。

「退避! 観客を避難させろ!」
 耀斗が叫ぶと、係員がすばやく動いた。

 耀斗は観客のいない方へ走り出す。
 鷹はそれを追って火を噴いた。

「妹を溺愛していると聞いていたが、これほど見境がないとは」
 耀斗は一人ごちる。

 舞台に火がつけば容易く燃えるだろうし、周囲は桜の木々で覆われている。いったん火が点けば大火事になるだろう。

 生身では対抗できない。
 耀斗は大きな白虎へと変化(へんげ)した。

 白金の体毛に黄金の縞。ダイヤモンドのような瞳に、同じくダイヤの爪。

 紅羽のような異能がないから遠距離攻撃はできないし、どのみち属性としては火に弱い。それでも生身で向き合うよりは火に耐えられる。

「ちょっと大きいだけの猫が!」
 紅羽は炎を吐いた。
 耀斗は大きく跳ねてそれを避けた。

「逃げるな!」
 紅羽は炎を吐くとともに、その足の爪で耀斗を狙う。

 避けた耀斗は牽制のために前足を振るう。

 紅羽はさっと舞い上がり、また炎を噴く。

 息とともに吐き出されるそれは、吐き切れば止まる。

 その隙に耀斗は前足を繰り出す。

 紅羽はさっとそれを避ける。

 牽制しあいながら、じりじりと時間が過ぎていった。