紅羽の頭にカッと血がのぼった。
 妹を傷付けた原因を見つけた。

 あの二人が浮気をして、だから珠夏は離婚を言い出したに違いないのだ。

 紅羽はつかつかと歩み寄った。
 気が付いた耀斗は会釈をするが、紅羽は目礼すらしなかった。

「今日このような場所にいらっしゃるとは、よほどの急用でいらっしゃる」
 耀斗は愛想よく言った。

「珠夏が来てるわよね。返して」
 紅羽はきつく彼をにらんだ。

「来てませんよ」
 耀斗は答える。そのような報告は受けていなかったから。

「嘘をおっしゃい!」
 紅羽が怒鳴る。

「こわーい!」
 黎羅は耀斗に抱き着いた。

 紅羽は頬をひくつかせた。
「その髪と目、麒麟の一族か。よくもこのような愚弄をしでかしたものだ」

 紅羽の口調の変化に、耀斗は眉を寄せた。これはよくない兆候だ。以前は口調が変わった直後に攻撃をされた。

「なんのことかわかりません!」
 黎羅は耀斗の陰に隠れた。

「あなたはお下がりください」
「耀斗様……」
 すがるように見る黎羅を、耀斗はひきはがす。

「あなたがいると話がややこしくなる」

 彼の言葉に、紅羽は、ふん、と鼻を鳴らした。

「不倫相手をかばうのか」
「不倫などしていない!」

「戯言を。ならばなぜ珠夏が離婚を言い出した?」
 紅羽が怒鳴る。

 ショーを観覧していた何人かが驚いて振り返った。

「声をお控えください」
「珠夏をお返し!」
 紅羽は激高するばかりだ。