「私のほうが先に彼を好きでしたのよ。あとから来て偉そうに妻だなんて。彼にふさわしいのは私ですわ」

「だけど……だからって、着物を……ショーが台無しになる可能性だってあったのに……」
「朱雀のせいだから仕方ありませんわね」

「みんなに本当のことを言います!」
 珠夏は必死にそう言った。

「白虎は朱雀が大嫌い。誰も信じませんわ」
 鬱金の瞳が光る。

 こんなことなどしなくても、私は身を引こうとしていたのに。
 あなたと彼がお似合いだなんてこと、とっくにわかっていたから。

 そう思うのに、もうなにも言葉にならなかった。

「耀斗さんも泥棒を妻にしておくことはできませんわね」
 黎羅は口の端を歪めて笑った。

「おとなしくすべてが終わるのを待てばいいのです」
 せせら笑いとともに足音が遠ざかる。

 珠夏はずるずると崩れ落ちた。

***

 紅羽がタクシーで駆け付けたとき、尾田原城では着物ファッションショーが始まっていた。

 着物姿の女性が花道を歩き、大音量の音楽が盛り上げる。

 主催者名を見て、虎守耀斗の会社だとすぐに気が付いた。

 きっと珠夏はこのショーに関連して来たのだ。呼び出されたのかなんなのか、紅羽にはわからない。

 手近な係員の女性を捕まえ、言う。

「社長を出しなさい」
「え?」
 係員は驚き、聞き返す。

「焔宮紅羽が来たと言いなさい。連れて来なければどうなるかわかるわね」
 紅羽はふうっと息を吐いた。吐息に炎が揺らめく。

「し、少々お待ちを!」
 彼女は慌てて走り出した。

 行く先を目で追うと、白金の髪の男がそこにいた。隣には金の髪の女性が親し気にくっついている。