まったく、反省するべきだ。
 雰囲気に呑まれて結婚を承諾したせいで苦しむはめになっている。

 だけど、白無垢を返しに来たのは正しい行動のはずだ。こんな目に遭うなんて間違ってる。

 このまま亮太を待って潔白を訴えるべきだろうか。
 だが、いつも敵意に満ちている彼が珠夏の無実を信じてくれるはずがない。

 逃げるための方策も浮かばず、嘆息だけが漏れる。

 スマホの入ったバッグは取り上げられ、誰にも連絡できない。
 どうしよう、と考え続ける珠夏の耳に、軽い足音が聞こえた。

「ここから出してください! 間違えて閉じ込められました!」
 珠夏は叫ぶ。

 足音は確実に自分に近付いてくる。
 どきどきしながら待った彼女は、その人物を見て驚いた。

 現れたのは黎羅だった。山吹色の振袖を着ている。半襟に重ねられた伊達襟(だてえり)には黄水晶のような模造宝石が線状に飾られていた。

「朱雀の者がつかまったと聞いて来てみたら……やはりあなたですか」
 黎羅は冷たく目を細めた。

「なぜ来たのですか。せっかく逃がしてあげましたのに」
「すみません。どうしても来なくてはならない用事があって……」
 珠夏が謝ると、黎羅は嫌悪の目を向けた。

「まあ、いいですけど。おかげでわかりやすく犯人になっていただけましたから」
 珠夏は耳を疑った。

「今、なんて……」
「白無垢を送ったのは私よ」
 黎羅は嘲笑を浮かべた。

 珠夏は呆然と彼女を見つめ返した。

 麒麟は慈悲の生き物だ。だからその一族も慈悲深いのだと思っていた。
 なのに、彼女は慈悲どころか珠夏を無実の罪に落そうとしている。

「私、耀斗さんとつきあってますの」
 黎羅の言葉に、珠夏の顔から血の気がひいた。

「和解のための形ばかりの結婚、耀斗さんがお気の毒ですわ」
「そんな……」

 わかっていたことだ。だが、こうやってつきつけられると、刀を突き立てられたかのように胸がえぐられる。