「うちの車で出かけたのかしら」
「はい」
 女中は即答した。

「運転手に連絡をとって、行き先を突き止めて」
「かしこまりました」

 女中は一礼してその場を辞した。

***

 会場に着いた珠夏は、花盛りを迎えた桜の木々を見て感嘆した。

 展示会は尾田原城(おだはらじょう)の一角で行われるということだった。展示会自体は場内のイベントスペースで、新作発表会となるファッションショーは城の真下にある広場で行われる。

 赤い生地が貼られた舞台と花道が設えられている。照明があちこちに並べられ、大きな音響装置がいくつもあった。

 その周囲を桜の薄紅が囲み、風が吹くたびにちらりちらりと花びらが舞った。

 きっと素敵なショーになるんだろうな。
 珠夏は目を細めた。

 ショーを成功させるためにも、白無垢を早く渡さなくてはならない。
 たとう紙に包まれた着物を手に、珠夏は周りを見渡す。

 書類を手になにやら話している人たちを見つけた。

 その中に着物姿の戸良内亮太が見えた。
 彼に渡せば耀斗に届くはずだ。

 ほっとして、亮太に近付いた。
 気配に気づいた彼は愕然と目を見開いた。

 珠夏は失敗を悟った。彼は珠夏が監禁されたことを知っている。今ここにいることを不審に思われたのだろう。

 だが、今さら引くわけにはいかない。
 珠夏は自分を奮い立たせて彼に近付いた。

 亮太は話していた人を手で制して珠夏に向き直る。
 珠夏はたとう紙を差し出した。

「これが家に届いて……今日使うものじゃないかと思って持ってきました」

 亮太は無言で受け取り、中をあらため、また驚く。

「盗まれた白無垢!」

「盗まれた?」
 珠夏は驚いた。