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 耀斗はため息をついて帰宅した。
 あの姉は以前から敵対的だった。

 高級車がずらりと並ぶ車庫に車を止めた。
 車を降りて扉を閉めると、ばたん、という音が妙に響いた。

 敵対の歴史は覆しようもなく、根拠のない悪評であっても先に耳にしてしまえばその影響からは逃れようもない。あとからどれだけ訂正しようとも、最初の印象は強く影を落とす。

 時間をかけて理解を求めるしかないことはわかっている。

 だが、なぜこちらだけが理解を求め、手数をかけなければならないのか。
 そんな思いが沸いてくるのも事実だ。

 考えても詮無いことだ。
 そう思い、自宅に戻ったときだった。

「若様、着物が!」
 玄関で彼を見るなり、女中が駆け寄って来た。

「白無垢が盗まれました!」
 耀斗は顔をしかめた。



 詳しく聞いた耀斗は目を細めて顎に手をやった。

 盗まれたのは展示会用の白無垢だ。縫い付けられたダイヤの純度は高くない。が、数が多いのでそれなりの値段にはなる。着物自体も質の高い純国産の絹を使っているので価値は高い。

 調べさせた結果、白無垢以外は盗まれておらず、金目当てではなさそうだった。

 外部から侵入した形跡はなかったし、鍵をかけた彼の部屋に入れる者となると、限られる。

 展示会を邪魔したい者の仕業か。

 思考を巡らす耀斗に、女中がこわごわと申し出る。

「あの……今日、赤い髪の女性が耀斗様のお部屋に入るのを見たのですが……」

 この屋敷で赤い髪といえば珠夏だけだ。

「もしかして……」
「早計なことを言うものではないよ」

 耀斗は彼女を見据える。優しい声音とは裏腹な鋭い目に、女中はびくっとして黙った。

「お前たちは引き続き探してくれ。俺は対応に動かなくてはならない」

 女中たちは頭を下げてその場を去った。