「せめて珠夏さんと話を」
「しつこい!」
 紅羽は表に出て玄関の引き戸を閉めた。

 瞬間、赤い光が周囲に満ちた。
 赤い羽の大きな鷹が現れ、(くちばし)から炎を吐いた。まるで火炎放射器だ。

 耀斗は一歩を下がってやりすごす。

「このような場で炎を使えば、ぼやではすみませんよ」
「珠夏を守るためならば、家の一軒や二軒、安い物」
 鷹は再び火を吐き、耀斗はとびのいた。

「戦う気はありません。話を」
「まだ言うか!」
 紅羽は急降下しながら炎を噴いた。

 耀斗は顔をしかめてそれもよける。

「仕方ありません。今日は帰ります。後日改めて」
 耀斗は燃えるような瞳の鷹に一礼し、背を向けた。

 紅羽はその背が見えなくなるまで、鷹の姿のままで威嚇を続けた。

***

 耀斗が迎えに来てくれた。
 玄関に一番近い部屋に隠れ、珠夏はどきどきして二人のやりとりを聞いていた。

 声は聞こえるものの、言葉は聞き取れなかった。

 こらえきれなくなって覗くと耀斗と目が合ってしまい、慌てて顔をひっこめた。

 耀斗と紅羽がもめている様子なのがわかったが、出て行く勇気はなかった。

 しばらくして、姉が一人で戻って来た。

「あいつは追い返したから、安心して」
「ありがとう」
 ほっとするより、ぎゅっと胸が痛んだ。

「まったく、いいのは外見だけね。あの程度の攻撃でさっさと帰るなんて根性もない。メールもうっとうしかったけど。珠夏、男は見た目で選んじゃダメよ」

 メールとはなんのことだろう。だが、それ以上にひっかかる単語があった。

「攻撃って」
「威嚇だけよ。大丈夫。珠夏は自分のことだけ考えて」

 うろたえる珠夏に、紅羽は安心させるように笑った。