娘が大学を卒業するまではという珠夏の両親に、婚姻届けだけでもと交渉し、彼女の大学入学前にそれを果たすことができた。
連絡先を聞きそびれていた。珠夏に会えたとき、すっかり舞い上がっていたからだ。
親を通じて連絡先を聞くしかなくて、フリーメールのアドレスだけを教えられた。
自分はその程度か、と落胆した。だが、まだ始まったばかりだ。これから仲を深めていけばいい、と気をとり直した。
メールの返事はいつもそっけなかった。
近況をたずねても、普通としか返って来ない。会う予定をとりつけようとしても、忙しいからと断られた。
折々の贈り物には、いらないけどありがとう、とメールが来た。
芝桜を見に行ったときとの様子の違いに戸惑ったが、珠夏への気持ちが揺らぐことはなかった。
父の会社に就職すると、海外支社への勤務となった。若いうちに経験を積ませようという父の配慮だった。
家族が増えてから海外へ出るよりはいい。だが、珠夏に会えない時間は耀斗の心を焦がす一方だった。
このままではダメだ。
耀斗は父の会社を辞め、日本に戻って起業した。
自分の会社ならば人事異動に左右されることはない。
そうして、彼女の大学卒業後にすぐに結婚式を行う手筈を整えた。
結婚式ならば彼女にも希望があるだろう。そう思ってたずねても、返事はいつも、お任せしますの一言だった。
やりとりはやはりメールだけで、電話番号もSNSのアカウントも教えてもらえなかった。結局、スマホの番号を交換できたのは同居を開始してからだった。
式の準備を進めている間に、麒麟の娘を住まわせる、と父に言われた。
大学に近いから下宿させてほしいそうだ。
一人暮らしは不安だそうで、大学から家が近い我が家に下宿することになった。麒麟に恩を売って置いて損はないからな。
おかしな時期の下宿の決定に、耀斗は怪訝に思った。
耀斗は不快だったが、当主は父で、決定権は当然、父にある。
珠夏以外の女性との同居など勘弁してほしいところだった。
家を出ることも考えたが、いずれ珠夏がこの屋敷の女主人となるのだから、屋敷を出てしまっては不都合が出るだろうと残った。
黎羅がなにかと耀斗に話しかけるのが邪魔くさかった。
連絡先を聞きそびれていた。珠夏に会えたとき、すっかり舞い上がっていたからだ。
親を通じて連絡先を聞くしかなくて、フリーメールのアドレスだけを教えられた。
自分はその程度か、と落胆した。だが、まだ始まったばかりだ。これから仲を深めていけばいい、と気をとり直した。
メールの返事はいつもそっけなかった。
近況をたずねても、普通としか返って来ない。会う予定をとりつけようとしても、忙しいからと断られた。
折々の贈り物には、いらないけどありがとう、とメールが来た。
芝桜を見に行ったときとの様子の違いに戸惑ったが、珠夏への気持ちが揺らぐことはなかった。
父の会社に就職すると、海外支社への勤務となった。若いうちに経験を積ませようという父の配慮だった。
家族が増えてから海外へ出るよりはいい。だが、珠夏に会えない時間は耀斗の心を焦がす一方だった。
このままではダメだ。
耀斗は父の会社を辞め、日本に戻って起業した。
自分の会社ならば人事異動に左右されることはない。
そうして、彼女の大学卒業後にすぐに結婚式を行う手筈を整えた。
結婚式ならば彼女にも希望があるだろう。そう思ってたずねても、返事はいつも、お任せしますの一言だった。
やりとりはやはりメールだけで、電話番号もSNSのアカウントも教えてもらえなかった。結局、スマホの番号を交換できたのは同居を開始してからだった。
式の準備を進めている間に、麒麟の娘を住まわせる、と父に言われた。
大学に近いから下宿させてほしいそうだ。
一人暮らしは不安だそうで、大学から家が近い我が家に下宿することになった。麒麟に恩を売って置いて損はないからな。
おかしな時期の下宿の決定に、耀斗は怪訝に思った。
耀斗は不快だったが、当主は父で、決定権は当然、父にある。
珠夏以外の女性との同居など勘弁してほしいところだった。
家を出ることも考えたが、いずれ珠夏がこの屋敷の女主人となるのだから、屋敷を出てしまっては不都合が出るだろうと残った。
黎羅がなにかと耀斗に話しかけるのが邪魔くさかった。