耀斗は外出先で気まぐれに変化し、大型犬に襲われた。

 ふいのことだったので、変化を解く暇がなかった。

 必死に反撃していると、女の子が通りがかった。

 淡い金の瞳には怯えがあり、手も足も、銀朱の髪までもが震えていた。

 なのに、彼女は近くに落ちていた棒を拾い、犬に向かってふるった。

 犬は威嚇するようにうなっていたが、彼女の必死の剣幕に、あきらめて退散した。

 耀斗がほっとして彼女を見ると、彼女は恐怖に顔を引きつらせて走って逃げた。

 助けてくれたのに、どうして。
 耀斗は驚き、追い掛けた。

 途中、彼女は自分に怯えていると気付いて追うのをやめた。

 赤い髪に金の瞳といえば朱雀に決まっている。彼女の身元はすぐにわかるだろう。

 そうして、帰宅した彼はすぐに彼女をつきとめた。

 焔宮珠夏。朱雀の本家の次女。

 猫が苦手だということはそのときに知った。
 苦手なのに、それでも助けてくれた。

 耀斗は彼女の勇敢さに感心した。と同時に、彼女が震える姿を思い出し、いじらしく思った。

 また会いたい。
 年月を経るごとに気持ちは大きくなっていった。

 だが、いがみあう一族同士、このままでは会えない。

 倉を漁って諍いの原因を探した。古い書物の中に、それは書かれていた。現代なら和解に持ち込めると確信した。

 その書物を根拠に当代である父に和解を提案した。
 父はすぐに朱雀との和解交渉に出て、成功した。

 そもそも父も対立を愚かしく思っていたようだった。手を組んだほうが商売が広がるのに。常々そう言っていた。

 耀斗から縁談をもちかけたとき、父は驚いていた。

 前時代的だが、婚姻による結びつきは効力が大きいな。
 そう言って、朱雀の家に申し入れてくれた。

 見合いの場で彼女に再会したとき、かわいらしさに胸がはずんだ。

 銀朱の髪は相変わらず彼女を美しく彩り、金の瞳は神秘的だった。

 結婚を承諾されたときには喜びのあまり跳ねまわりそうだった。

 必死に自分を抑えた。彼女が自分を大人だと思っているようだったから、懸命に大人な自分を演出した。

 早く結婚して自分のものにしたかった。