彼はどういうつもりなのだろう。

 展示会が終わったら話をしようとは言われたが、なにを話せばいいのだろう。自分は冷静に話せるのだろうか。

 珠夏は抹茶ミルクを飲み干し、ため息をついた。

***

 軟禁された部屋には浴室もトイレもあり、食事は都度(つど)、運ばれて来た。

 珠夏は数日をそこで過ごした。

 展示会がいつなのか、聞きそびれてしまった。

 スマホはつながらないし、女中たちはみんな自分を見下しているし、誰にも助けを求められない。

 いつまでここにいればいいのだろう。

 暇つぶしのためのテレビも本もあるし、足りないものは女中に言えば持って来てもらえる。

 とはいえ、女中は年配の人になるほど珠夏に冷たく、嫌味を言って来る。軟禁を慰めてくれる人なんて一人もいなかった。

 だから、午後のお茶の時間に訪問者が現れたとき、珠夏はただ驚いた。

「結婚式以来ですね。ご無沙汰しておりまして申し訳ございません」
 黎羅は優雅にお辞儀をして口上を述べた。

「ご丁寧に、ありがとうございます」
 慌てて珠夏もお辞儀を返した。

 黎羅は芥子(からし)色の振袖を着ていた。黄色は麒麟の色だ。生地に大輪の花が咲き、彼女によく似合っていた。

 これも耀斗の見立てだろうか。思って、胸がきゅっと痛んだ。

「私、あなたをお助けしたいと思っております」
 黎羅の言葉に、珠夏はまじまじと彼女を見た。

「あなたがこの結婚を嫌がっていると聞きまして。式の夜は大変だったとか。それほどお嫌でいらっしゃるのに家のために身を捧げるなど、そんな痛ましいことはございません」

 彼女は悲し気に目を伏せた。
 珠夏の胸にまた痛みが走った。

 麒麟は慈悲の生き物だという。
 彼女はその血を引いていて、だからこんなに優しいのだろうか。耀斗もそこに惹かれたのだろうか。