私、桐崎桃(きりさき もも)がまだ幼かった頃。ずっと一緒に育った男の子がいた。名前は竜野涼(たつの りょう)くん。私が困ってるとすぐ助けてくれた、優しい男の子。

 「涼くん、明日は何して遊ぶ?」
 「……俺」
 「ん?」

 蝉が鳴く夕暮れの中、明日は何をして遊ぼうか。そんな話をするのが日課になっていた私達。

 いつも通り問いかけても涼くんは中々返事をしない。どうしたのかと顔を覗き込んで見れば、それはとても悲しげだった事を今でも鮮明に覚えてる。

 「明日、引っ越すんだ」
 「え……」

 突然そんな事を言われて、私も困ってしまった。

 明日から涼くんに会えないの……?

 帰って泣きながらお母さんに問えば、やっと聞いたのねと言わんばかりに、なだめるように抱きしめてきた。

 「なんで?なんで涼くん引っ越しちゃうの?」
 「……いろいろ理由があるのよ」

 後から知れば、その理由はご両親の離婚。当時の私に分かるわけもなく。今思えば納得出来る理由だった。


 そんな夏の出来事から数年。私は高校2年生になった。

 親友の橘瑞希(たちばな みずき)と至って平凡な生活を送っている。

 「待って瑞希!」
 「遅いよ桃ー」







 「おい待てよ椎名ー」
 「遅せぇよ。全く」





 そんな私達がすれ違っていたなんて全く気づかなかった。