小学校からの帰り道。
西に傾きつつある太陽の下を、ランドセルを背負った二人の子どもが走っている。
一人は私で、もう一人の子に手を引かれている。私は必死に足を動かしてついて行くが、小石に躓いて転んでしまう。
「いたっ…!」
ザリザリとしたアスファルトにぶつけた膝を庇う。見ると擦り傷ができていて、薄くなった皮膚には血が滲んでいた。
痛みと悔しさで涙が出そうになるのを堪えていると、ふと前方から声がした。
「悪いシノ、大丈夫か?」
そう言って、私の手を引いて走っていた子が駆け寄る。その子の額には汗が滲んでいた。
私はすぐに立ち上がり、無理矢理口角を上げて親指を立てた。「大丈夫」という意思表示と子どもっぽさ全開の強がり。
そんな私を、その子は一瞬ポカンとした顔で見つめた。しかしすぐにニッと笑うと、不意に私の左隣に並んだ。
「え…?」
今度は私がポカンとする。するとその子は私の手をギュッと握りしめた。汗で湿った手を握られ、私は顔が熱くなる。
困惑と恥ずかしさが入り混じった顔を、私は真横に向けた。
すると突然太陽の光がキラキラと当たり、その子の顔はよく見えなかった。だが、口元がニッと笑ったことだけは確認できた。そして「手を繋いで歩くか、シノ!」と言って、その子は足を一歩前に出した。
私は何だか嬉しくて、歩調を合わせて足を前に出す。
その時…
ぐらぐらぐらっ!
と、大地が唸るような揺れが私たちを襲った。
「うわっ」「きゃっ」
私たちはバランスを崩し、地面に倒れ込む。
ぐらぐらぐらっ!
またもや大地が揺れた。体の内部がかき回されるような奇妙な感覚と、激しく揺れてザワザワと葉を散らす周囲の木々。
さっきまで明るく光っていた太陽は雲に飲み込まれ、世界が灰色に包まれていく。
「シノ…っ!」
うつ伏せになった顔を上げて、私を呼ぶその子。私もハッと顔を上げ、互いに見つめ合う。
その瞬間。
ピシピシピシッ。
そんな音がしたかと思うと、突然私の視界に…いや、私の視界に映るその子の顔にヒビが入りはじめた。
まるでテレビの液晶画面にヒビが入ったかのようだ。私は咄嗟に手を伸ばした。その子になんとか触れようと。
しかし私の手が届く前に、その子のヒビは全身にまわって粉々になってしまった。
「あ……」
力なき声が出る。私は伸ばした手をだらんと地面におろした。
ゴゴゴゴッと遠くで音がした。山か何かが崩れ落ちるような音だ。嫌な予感が私の全身を駆け巡った。
数秒後。人々の悲鳴や叫び声、本能に危険を訴えるかのようなサイレンがあたり一帯に鳴り響いた。
つーと血の流れる膝を起こし、私は立ち上がる。「逃げないと死んじゃう」、そんな不安と恐怖を本能が伝えていた。
しかし今度は、私の視界が暗闇に包まれる。
そして私の体は、どこまでも暗い、光のカケラさえ存在しない、常闇に飲み込まれた。
人々の逃げ惑う声も、耳をつんざくようなサイレンも徐々に遠くなっていく。
そして私は、深い闇の底に落ちていく。
どこまでも、どこまでも。
落ちていく中、私は胸の前で両手を組み、強く想った。
「この世界に希望が持てないのだとしたら…
私は…」
西に傾きつつある太陽の下を、ランドセルを背負った二人の子どもが走っている。
一人は私で、もう一人の子に手を引かれている。私は必死に足を動かしてついて行くが、小石に躓いて転んでしまう。
「いたっ…!」
ザリザリとしたアスファルトにぶつけた膝を庇う。見ると擦り傷ができていて、薄くなった皮膚には血が滲んでいた。
痛みと悔しさで涙が出そうになるのを堪えていると、ふと前方から声がした。
「悪いシノ、大丈夫か?」
そう言って、私の手を引いて走っていた子が駆け寄る。その子の額には汗が滲んでいた。
私はすぐに立ち上がり、無理矢理口角を上げて親指を立てた。「大丈夫」という意思表示と子どもっぽさ全開の強がり。
そんな私を、その子は一瞬ポカンとした顔で見つめた。しかしすぐにニッと笑うと、不意に私の左隣に並んだ。
「え…?」
今度は私がポカンとする。するとその子は私の手をギュッと握りしめた。汗で湿った手を握られ、私は顔が熱くなる。
困惑と恥ずかしさが入り混じった顔を、私は真横に向けた。
すると突然太陽の光がキラキラと当たり、その子の顔はよく見えなかった。だが、口元がニッと笑ったことだけは確認できた。そして「手を繋いで歩くか、シノ!」と言って、その子は足を一歩前に出した。
私は何だか嬉しくて、歩調を合わせて足を前に出す。
その時…
ぐらぐらぐらっ!
と、大地が唸るような揺れが私たちを襲った。
「うわっ」「きゃっ」
私たちはバランスを崩し、地面に倒れ込む。
ぐらぐらぐらっ!
またもや大地が揺れた。体の内部がかき回されるような奇妙な感覚と、激しく揺れてザワザワと葉を散らす周囲の木々。
さっきまで明るく光っていた太陽は雲に飲み込まれ、世界が灰色に包まれていく。
「シノ…っ!」
うつ伏せになった顔を上げて、私を呼ぶその子。私もハッと顔を上げ、互いに見つめ合う。
その瞬間。
ピシピシピシッ。
そんな音がしたかと思うと、突然私の視界に…いや、私の視界に映るその子の顔にヒビが入りはじめた。
まるでテレビの液晶画面にヒビが入ったかのようだ。私は咄嗟に手を伸ばした。その子になんとか触れようと。
しかし私の手が届く前に、その子のヒビは全身にまわって粉々になってしまった。
「あ……」
力なき声が出る。私は伸ばした手をだらんと地面におろした。
ゴゴゴゴッと遠くで音がした。山か何かが崩れ落ちるような音だ。嫌な予感が私の全身を駆け巡った。
数秒後。人々の悲鳴や叫び声、本能に危険を訴えるかのようなサイレンがあたり一帯に鳴り響いた。
つーと血の流れる膝を起こし、私は立ち上がる。「逃げないと死んじゃう」、そんな不安と恐怖を本能が伝えていた。
しかし今度は、私の視界が暗闇に包まれる。
そして私の体は、どこまでも暗い、光のカケラさえ存在しない、常闇に飲み込まれた。
人々の逃げ惑う声も、耳をつんざくようなサイレンも徐々に遠くなっていく。
そして私は、深い闇の底に落ちていく。
どこまでも、どこまでも。
落ちていく中、私は胸の前で両手を組み、強く想った。
「この世界に希望が持てないのだとしたら…
私は…」