〜叶笑side〜
まさか、今日も彼と会うなんて少し前まで予想もしていなかった。
部室は二階にあって、さっき、たまたま男子ハンドボール部が試合らしきものをしているのを目撃したのだ。
しかも、顧問の先生を探して一階に降りると陽斗さん本人に会ったのだ。なんといったミラクルか。
「教室でいいんだよね?」
不安になりながらも、部活が終わったので彼を待っていた。場所くらい聞いておけば良かった、なんてもう手遅れだ。
でもそんな心配は必要無かった。
「やっほー!今日会えるなんてね。びっくりしたよ」
「私も、まさかあなたに会うとは思ってなかったです」
彼は走って駆けつけてきてくれたのか、それとも部活のせいなのか、額にはいくつもの汗があって、部活用のシャツの袖で
何回も拭っていた。一生懸命になれることがあるのって、本当にありがたいことだと思う。
だから、これからも頑張ってね、なんて心の片隅で彼を応援した。
「あーあ、今日は最悪だ。試合でズタズタにされるし、水筒忘れるし、エースとも言える奴が試合できなくなったし、君に汗だくのカッコ悪い姿を見られるし。あーあ、最悪だ」
「でも、後半は二点差で勝ちましたよね?それに、汗だくがカッコ悪いとか思ってないです」
「本当に危なかった。前半なんてもう、あ、これ負けるって危機を感じたよ。ま、叶笑さんが見ていると思ったらなんとなく勝たないとって思って、俺だけだとは思うけどめっちゃ気合い入れたんだ」
そう、前半はやばかったけど後半になってからは凄かった。どんどん点の差が縮まっていった。それも、半分以上が陽斗さんが。
「ま、それよりもこの前の続きを話そうよ。次は叶笑さんの番」
「私の秘密を話せばいいんですよね?」
「うん、そうだよ。あ、なんでもいいよ。先生の愚痴とか?」
「いや、それはないですって」
秘密か……なんなら秘密は秘密なんだけど?私は完全なる秘密主義者。自分でも認めている。話したくないから話さない。
そんな選択肢を選んできた。そして今も、私は秘密を守る。自分の身に変えたって、秘密は絶対に隠し通す。
前に、そう心に誓ったんだ。だから、ごめんなさい。陽斗さん。裏切っちゃうけど、あなたの事は悪く思ってないよ。
これ以外にも私が今話せる秘密は数少ない。でも、陽斗さんが話してくれた分、ほんの少しだけ心を許してみようかな。
「私の秘密はね。何にもないことかな」
「何もない?」
「はい。全部平均くらいでなんの取り柄もない自分が少し許せなくて」
そう、小学生の時はまだ自分には取り柄があると信じていた。実際に、人より少し足が早くてアンカーに入ったこともあったし、
絵もみんなに上手だと言われることもあった。でも、そんな考えは甘かった。
中学生に上がると、みんなが私よりも優れている才能を持っていて、私は普通になった。特に、精神の方が弱っていったのか誰かに反論
する力が格段に無くなっていった。誰かの意見に合わせることが多くなったからかもしれない。
「私は、今、嘘をつきました。平均なのが許せないんじゃなくて、反論する力がないのが悔しくて、そんな自分が憎たらしいんなと思います」